男装の麗人 リーヴァ
「リベルテ学級王国」
そこは、常に学ぶ者には勉学のとびらが開かれている場所。白と金を基調としたさっぱりとした宮殿のような建物で床は大理石で統一されていて、建物はこの王国のシンボルである宮殿と似た作りとなっている。魔法塔、歴史塔、平和塔と三つの塔に分散されていて、魔法、魔法薬学、歴史、遺跡、数字と、学問や魔法の授業に合わせて使い分けられている。とにかく幅広く対応しているのが特徴的だ。
リベール王国一大きく高尚な学校であり、生徒の質はピンキリだ。格式の高い血筋からそうでない者まで幅広い生徒が通っている。
リベルテ学級王国の学年は少し特徴的である。
10歳から仮入学が可能で、1年生・2年生。
2年生から正式に進級、12歳から入学すると、数え方が変わり6等生となる。そこからは6等生、5等生、4等星、3等生、2等生、1等星と、数字がどんどん減っていく。
創造者はこの国を治める女王で、学級王国長も勤めている偉大なる方だという。
そんな学級王国の6等生である、まだまだ新入生のリアーナは、1人とぼとぼと歩いていた。憂鬱な学校、きっと憂鬱な未来。
「もう、この世の終わり。明日に世界が滅びたほうがまだマシ……」
ため息とは言えないほど口から息を吐き出して、暗い悲壮感を撒き散らしながら涙を拭い歩いていると、リアーナの左側から少し低い声が聞こえてきた。
「おーい!リアーナ!」
「あ、リーヴァ、おはよう。……相変わらず今日も輝いてるねぇ」
左側からきたのは、少し濃い柔らかいミルクティーベージュの頭。前髪は目の少し下で揃えて切られ分けられている。後ろ髪は短くボーイッシュな女の子。その下にはほんの少し吊り目がちな瞳に、制服はプリーツスカートではなくズボンを着用している少女は麗しい騎士のように見える。リアーナの数少ない友人である彼女を、リーヴァ・サーズプレイズという。
「リーヴァの笑顔が眩しいよ……」
「ど、どうしたんだい?いつもの明るさがない理由を聞かせてくれないかな?」
「うぅ、りーゔぁ……」
✴︎ ✴︎ ✴︎
かくかくしかじか。
リアーナは尋常じゃない悲壮感を漂わせながらも、拙く話した。それにリーヴァは嫌な顔一つせずに、「それは大変だ!」「きっと大丈夫だよ!」とリアーナを優しく励ましている。リアーナよりも遥かに高い身長をもつリーヴァ。遠くから見たら兄妹のようにも見えるくらいだ。
学校につき、大きな門を潜り抜ける。
リアーナの足がほんの少し怯む。リーヴァは何も言わずにリアーナの腰にさりげなく手を合わせて支えてくれる。
2人は大抵一緒にいるのがデフォルトだ。きっとこういうのをニコイチとでもいうのだろうか。
基本的に明るい2人はいつだって笑顔だ。だからこそお互いの笑顔がほんの少しでも暗くなれば、どちらかが必ず引っ張り上げるような関係で、かけてはならない大切な友人だ。
「リーヴァやさしい……」
「僕より、君の方が優しいよ。だって君は、家族に迷惑をかけないためにそれを了承したんだろう」
「だって、母さま達もきっと私を思っての事だから」
「……リアーナ、君」
リーヴァがリアーナに声をかけようとした時、
「きゃー!!!見て!リーヴァ様よ!」
「本当だわ!今日も麗しく美しい……」
歓声が周りから聞こえてきた。
そう、これはリーヴァのビジュアルや、彼女の持つ博愛主義に胸を打たれた人たちによる応援の様なものだ。リーヴァは今日も、素敵な笑顔で「ありがとう!」「そんな事ないよ」と応援を真摯に受け止めている。
それと対象に、リアーナに向けられる言葉は酷いものだった。
「おい見ろよ。あの白い肌に髪色。気味が悪い」
「あぁいうのを、不純な血っていうんじゃないか?」
「ちょっと、聞こえちゃうじゃない!やめてあげなさいよ。でも魔法実技の劣等生なんだから、不純な血って気づいてないんじゃない?」
(毎日毎日、ばかみたい)
ほぼ毎朝そしてリアーナを見つけるたびに、不純な血と言葉をぶつけてくるこの人は、リアーナを毛嫌いしている、「不純な血」と呼び出したとある人物の取り巻きである。
気にしないと思っていても、やはりダメージはある。いくら毎日ちゃらんぽらんに笑いを振り撒いているリアーナでも、怖いものはある。
悪く言ってくるのは一部の人だと分かっていても、その一部に気を取られてしまうのも人間の性さがだからだ。
「リアーナ、聞かなくていい。早く教室に行こう」
いつのまにか取り巻きを散らしたリーヴァがリアーナを守る様に腰を抱き、颯爽と歩き出す。リアーナがチラリとリーヴァを見ると、顔には怒りが浮かんでいた。
リーヴァはいつもこうやってさりげなく助けてくれる。
以前、一度リアーナの悪口を言う人たちに向かって対抗して事態が余計に悪化してしまったことがあったのだ。それ以来はこうやって何もせずに去ることにしている。
リーヴァは歯痒そうな表情をしているが。
「リーヴァ!はやくいこ!」
自分のせいでこんな表情をさせていることのほうが、リアーナは嫌だった。だから、たくさん笑ってリーヴァの蟠りを少しでも軽くしてあげなきゃいけないのだ。
✴︎ ✴︎ ✴︎
程なくして教室に辿り着き、リアーナとリーヴァに挨拶をしてくる人もチラホラと見えてくる。2人にも、一応普通に話す人くらいは存在するのだ。
現在2人がいるのは、「魔法実技用防衛結界室」と呼ばれている場所だ。1時間目は魔法実技の授業のため、リアーナは指を振って地面に落ちている埃を魔法で浮かせていた。もちろんちゃんと浮かびあがらない為、地面で小さな埃を動かしているだけだが。切ない。
「ねぇ、不純な血って結局どんな血なの?」
それを聞かれたリーヴァは真剣な顔をリアーナに向ける。いつものスマイルは見当たらず、その言葉が本当に嫌いだと言うことを剥き出しにしている様に哀しく歪んだ顔だった。
「それは僕もわからない。はるか昔に禁止用語になっているって噂だし。今朝のやつらもきっと本当の意味を分かって使っている人はいないと思うよ」
「お母さま達にさらっと聞いてみたら、すごい怖い顔して誰に言われたの?なんて言うものだから、結局聞けなかったな」
結局、そんな事を言われたのかと慌てふためいたモシュネと荒れ狂うエドゥアルトを鎮めるのは骨が折れた事を思い出す。それ以降、リアーナは心配する両親にその話を持ち出すことはしなかった。リアーナは心情的な面で人に心配をかけることが苦手なのだ。
すると、突然リーヴァがリアーナの両肩をガシリと掴む。その顔は切羽詰まっているようで、目が本気だ。
リアーナは何があったのかと戸惑いを隠しきれなくて、鼻と鼻がくっつきそうなくらいに近づいた顔の間に手を入れて抑えた。
「リアーナ、やっぱり一度ガツンと何か言ったほうがいい」
「が、がつんって?」
「ちょうどいいじゃないか!今度、学級王国全体で魔法実技でトーナメント式の魔法戦があるだろう?そこでリアーナが皆んなを見返すんだ」
突然のリーヴァの提案にリアーナはもう卒倒しそうだ。
そもそもトーナメント戦型試験は、同レベルの受験者同士を一対一で魔法戦で競わて勝ち上がればあがるほど、成績の評価も上がっていくという脳筋の様な試験だ。
何が楽しくて魔法実技底辺スレスレを這いつくばっている人間が魔法戦で勝ち上がらないといけないのか。
しかもはじめての対戦で。そして劣等生が。
「無理!」
「なぜだい?だって、無理ではないかもしれないよ。僕たちまだ魔法戦を経験していないんだし」
リーヴァはこう見えて面倒くさいタイプの頑固ものだ。
できると思えば諦めずに何度も挑戦するし、こうと決めたらがんとして頑として他の考えを受け入れない。
現にリーヴァは「僕たち2人でトップを目指すんだ!勝ち進むと何かいい事があるって噂もあるみたいだし。ね?」と、もうやる気満々である。
対してリアーナは全くの真逆で、ある程度やって出来なければ辞めるし、やろうとしたことに他の人からの意見を言われたらすんなりと受け入れる。
つまり頑として譲らないリーヴァが、他人の言うことをホイホイ聞くリアーナにそう提案したと言うことは。
「でも……」
「できるよ!僕も協力するから、一緒に頑張ろう!」
「ひえぇ……」
この展開は避けられないのである。
その後の魔法実技の授業は魔法体術の飛行術で箒を浮かばせようとしたら、勢いよく飛んだそれを顔面に受けて、クラス中の笑い者となったリアーナだった。
なんとも、幸先不安すぎる。
そこにいたムキムキ教師は、「リアーナお前……まずは反射神経を鍛えたらどうだ」とリアーナの鈍感さにほとほと呆れていたのだった。
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