第37話 4人組

「おーおー、やってるやってる」


「うわッ、ボッコボコじゃん」


勇者くんと模擬戦を繰り返していたある日、綾人と真也がやってきた。


「どうした?」


「面白そうだから見に来た」


そんなわけで勇者くんとの模擬戦を一旦やめにして雑談タイムに突入した。



「いまさらなんだけど勇者くんの本名って何?」


「え?今永勇人だけど」


「へぇ~、勇人って言うんだ。勇者っぽい名前だね」


「ちょっと待って?俺の名前を知らないで仲良く模擬戦してたってわけ?」


「まぁ、そういうことになるね」


「うそでしょ?」


「俺たちは本名よりも戦闘力を重視するから」


「それでも苗字ぐらいは知ろうとする努力を……」


「まぁ、名前を知ったところで勇者くんは勇者くんだし。呼び方が変わるってことはないと思うよ」


「うんうん」


「それな」


「別に呼び名は勇者でいいんだけどさぁ。君付け恥ずかしいからやめてくんね?」


「勇者くんじゃなくて勇者って呼んでほしいの?」


「呼ぶならそっちの方がいいなぁ」


「オッケー、これからは勇者って呼ぶわ」


そんなことを話しながら放課後の鍛練場で雑談を続ける。

こうやって勇者くんもとい、勇者はたぶん俺たちと同じだイプの人間なのではないかという確信が湧いてきた。俺たちと同じ戦うのが大好きな人。

ダンジョン配信とか冒険者とかって『金』を第一に考えて活動している人と『声名』を第一に活動している人の2パターンが普通なんだけど、勇者は『戦うのが大好き』だから冒険者しているって雰囲気がする。


「勇者って戦うの好き?」


「結構好きだよ。配信してない日もよくダンジョンに潜るし」


「俺たちと同じか~」


「俺たちが弱くなったら勇者になるってわけか」


「俺たちの下位互換」


「言ってること酷くね?泣くよ?」


「勇者の泣き顔はそっち方面に需要あるから泣いていいよ」


「勇者の泣き顔だけで商売やっていきそうだしね」


「キモイからやめて」


そんなことを言いながら下校時間ぎりぎりまで雑談を続けていた。





「どっちかっていうと勇者は俺と模擬戦するんじゃなくて綾人と模擬戦する方がいい気がする」


「俺と?」


「俺って近接攻撃しかやらないじゃん?真也は魔法攻撃しかやらないじゃん?

それなら近接と魔法のどっちもできる綾人が勇者と模擬戦したら勇者も正統に強くなると思っているわけよ」


「確かに。じゃあ明日やらない?」


「勇者ってこういう所はアグレッシブというかすぐ行動するよね」


学校を後にして、近くにあったファミレスで雑談の続きをする。

親にはすでに連絡を入れているから問題なし、今日は夜遅くまでファミレスで豪遊するぞ~


「というか、なんで3人は俺をそんなに気に掛けるの?」


「気に掛けているわけじゃないんだけど、強いて言うなら面白そうだから?」


「面白そう?」


「聖魔法ですら面白いのに戦闘スタイルが欧米よりだからめっちゃ面白いよ。戦っててワクワクする」


「聖魔法って割と解明されてないから興味があるっちゃある」


「というわけで、これからも模擬戦よろしくね」


「模擬戦自体は結構有意義だからボコボコにされても何も言えない。ムカつく」


「そりゃ、伊達に桜杯優勝しているわけだし」


「俺も準優勝してるし」


「新しい魔法陣の機構を最年少で発見してますし」


「天才多すぎない?」


「お前もその天才になるんだよ」


現在の俺の功績『桜杯優勝』、綾人の功績『桜杯準優勝』、真也の功績『新しい魔法陣の発見』。うーん、確かに天才って言われるのも納得だ。


とはいえ勇者も勇者で『国内初の聖魔法』。多分この中で一番先天的な天才は勇者だ。まあ、そんなことはさて置いて


「勇者の聖魔法って面白いよね~」


「わかる。モンスター特攻とか普通の魔法には存在しえないもん」


「そんなに気になるなら今からダンジョン行く?」


「うーん、俺はいいけど」


「まぁ、バレないだろ」


「うんうん、バレないバレない」


「?」


「いやー、俺たちって中学生の頃にダンジョン内でスタンピードに遭遇しちゃってさ」


「へぇ、何層で遭遇したの?」


「70層」


「………………マジ?」


「大マジだよ。あの時はヤバかったよね」


「そんなわけで俺は親から止められてる」


「まぁバレないから大丈夫だろ」


「大丈夫じゃないって」


「大丈夫だって」


「どこが?バレたら俺の人生終わるよ?相手華族よ?」


「そっか、勇者って平民か……」


「その言い方ムカつくからやめろ」


「一般階級って方がいいかな」


「どっちもどっちなんだよなぁ」


普通に考えて平民って言うだけで炎上する世の中っておかしいと思うわけよ。そこまで言うなら逆に君たちで呼び方を考えなさいって話だ。


まぁ、それを差し置いても俺は結構失言してるから炎上することには変わりないんだろうけどね。


「平民の呼び方で思い出したんだけどさ、湊の炎上癖治らないの?」


「勇者~、湊が炎上しないようにする方法とか無い?」


「どっかの事務所に放り込んでコンプライアンス研修させるとか?」


「たぶんその事務所ごと燃えるぞ」


そんなことを言いながら夕飯をファミレスで済ませる。

帰りに勇者と連絡先を交換したし多分、勇者と仲良くなった。

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