オタク履歴その④ メルヘヴン(MÄR)

 この漫画は、「ケロロ軍曹」と同時期にハマっていた作品で、週刊少年サンデーにて連載されていた。漫画版のタイトルは「MÄRメル」、アニメ版のタイトルは「メルヘヴン」だ。

 この作品は、メルヘンの世界に憧れる中学生の少年・ギンタが異世界に飛ばされて、仲間と共に、魔法のアイテム「ÄRMアーム」を駆使して、世界を救うための戦いに身を投じていく物語だった。日曜日の朝10時からアニメも放送していた。

 これも最初は弟が見ていたのだが、いつの間にか私の方がハマっていた。

 ハマったきっかけは何かというと、まあ、キャラクターに惚れたのだ。主人公ギンタの仲間である彼は、「ナナシ」という名前だった。行き倒れていたところを盗賊ギルドに拾われたのだが、それ以前の記憶を失っていて、名前も思い出せないことからナナシと名付けられたのだ。自分を拾ってくれた盗賊ギルドのボスを務めていたが、敵の組織に仲間を殺され、復讐のためにギンタたちと共に戦いに参加する。お調子者のフェミニストで、関西弁で喋り、普段は三枚目のくせに、決める時は決めるニクい男だった。

 彼に惚れたことで、私は原作も買い集めたり、アニメを見たりして、ナナシに現を抜かした。

 また、私はこの時期に、父親からパソコンの使い方を学んだ。インターネットという概念を知ったのもこの時だ。

 パソコンを使えるようになったとはいえ、最初こそ、Ya●ooの検索窓に好きなアニメのタイトル、この頃ならメルヘヴンと打ち込んで検索して、アニメの公式サイトを眺めているだけで済んでいた。しかし、だんだん雲行きが怪しくなってきた。

 ある時、メルヘヴンというワードで検索していたら、アニメの感想が書かれたブログがいっぱい出てきた。同じアニメを好きな人たちの書き込みを、私は楽しく読んだ。そして、新たなる感想ブログを探すため、検索しまくった。

 そんな中、私はとあるサイトのリンクをクリックすることとなる。そうしたら、「名前を入れてください」という謎のウィンドウが出た。ここで、察しのいいお仲間は察してくれると思う。まあとにかく、最初、私はこの不審なウィンドウに何も入れず消した。そうしたら出てきたのは、大好きなナナシが、原作にもアニメにも登場しない謎の女キャラといちゃついている小説だった。私はびっくりしたが、女キャラが、この小説を書いた誰かが創作したオリジナルキャラクターだとすぐに気づいた。そして、ナナシが女キャラに甘い言葉を囁き、溺愛する様子に惹かれ、そのサイトに通うようになった。

 そう、私は「夢小説サイト」に迷い込んでしまっていたのだった。

 ここでわからない人のために解説しておくと、「夢小説」とは、特定の登場人物の名前を読者が設定できるようにした小説のことだ。主人公 (ここで言う「謎の女キャラ」) に自分の名前を設定すれば、まるで自分が物語の中に入ってキャラと恋愛しているような気分になれる、という狙いで書かれた小説が多い。アニメや漫画のキャラクターを借りた創作、「二次創作」の中でも大きな勢力の一つだ。

 当時、二次創作における「検索除け(検索エンジンでサイトや創作物が見つからないようにすること)」という概念はまだ浸透しておらず、検索エンジンで調べれば夢小説やBLなどを扱う二次創作サイトに容易に辿り着けた時代だった。私は、「なんの知識もない幼子がサイトに迷い込んでしまう」という、最悪の事態に巻き込まれてしまったのだった(そういうこともあって、現在の二次創作者は、検索除けにかなり気を配っている)。

 そんなわけで、すっかり夢小説の虜になってしまった私。もちろん、周りに同じ趣味の人間などいないので、自分一人で楽しみ、知識もつけていった。

 最初は不審に思ったウィンドウの使い方も、すぐに察することができた。自分の名前を入れたら、女キャラが自分の名前に変わった時の感動は、今でも忘れることはできない。

 そして、もともと色々な物語を空想するのが好きだった私は、自分でも「夢小説」を書いてみたいと思うようになった。大学ノートに、拙い字で自分だけの物語を綴るようになり、妄想を家族や仲の良い親戚に話して聞かせるようになった。当然、二次創作なんていうアングラなものを両親や親戚が知るはずもなく、理解してもらえることは無かったが(というか、私自身も「二次創作」という概念が理解できていなかった)。

 というか、二次創作は隠れてするべきものなのに、パンピー(一般人のこと)の家族や親戚にそんな話をしていたなんて、今思い出しても死にたくなるし、その頃の私をぶん殴りに行きたい。

 とにもかくにも、私の二次創作者としてのルーツは、メルヘヴンにあるといっても過言ではないのだ。

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【リハビリ用】私のオタク履歴エッセイ 霜月 一三 @66126

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