20 黒幕の正体


「アルテミス、物的証拠はないが、ワガハイの話を聞いてくれ」


 元女王コノハ様の執務室に呼ばれ、私は応接セットに座らされている。


 室内は、国王執務室と同じ雰囲気で、私には落ち着かない部屋だ。



「コノハ様……まずは、私からお話しします」


「聖女の新しい治癒に欠陥があると、伯爵夫人の口から聞きました」


「神隠しの犯人たちも、聖女の新しい治癒には欠陥があると言っていました」


 私が見聞きした内容だ。


 その欠陥によって、直接、間接的に、多くの人間が亡くなった!



「執行聖女の証言は、大司教様のお墨付きであり、疑う者はいないが……」


 元女王が口ごもる。裁判にかけるとなると、物的証拠が必要になるからだ。


「聖女の新しい治癒の魔法陣を解析したいが、公爵家の秘密だと言って、頑として首を縦に振らない」


 利益を守るための、特許という法律を盾にされると、王族でも無理強いはできない。



 黒幕が、犯罪を認め、心に後悔の念などのスキができれば、裁判を経ず、その場で執行魔法陣を発動することができる。


 しかし、それが裁判中となれば、無抵抗の相手を、私が一方的に処罰したという形になってしまう。



「自分の娘を聖女に仕立て上げ、光属性の治癒で私腹を肥したのは……」


 元女王は、黒幕の正体を知っていた。



「私の義弟であるゼブル公爵だ」


 黒幕は、元女王の義弟である公爵だった。


 予想どおりであるが、爵位が高すぎて、しかも自分の手を直接汚していないので、起訴しても極刑に持ち込むことは難しい。


 実行犯は、すでに消されており、物的証拠も無い。



「私に、手出しするなと言う事ですか?」


 元女王が明かした黒幕の名は、私に手を引けという命令に聞こえる。



「慌てるな、王国の護衛兵では逮捕できないかもしれないが、執行聖女であるアルテミスなら……動けるのだろう?」


 そんな悪党を潰すため、私のような執行聖女がいる。



「国王陛下に迷惑をかけるかもしれません」


 唯一、気がかりな点だ。



「ワガハイですら狙われたのだ、国王ニニギも狙われる」


 まさか……いや、追い詰められたネズミは、ネコをも噛むという。



「公爵は、ケルベロスという強力な手ゴマを持っている」


「傭兵は三体だ、気をつけろ」


 その傭兵に、公爵が命令を下しているだろう。傭兵を実行犯として逮捕することができたら……


 しかし、傭兵はプロとして、口を割らないだろう。


 最悪は、体内に爆弾が仕掛けられていて、ゼブル公爵の名前を言おうとすると、自動的に爆発するだろうな。


 すでに二体は倒した。


(あんなのが、あと一体か……)


 格闘戦は好きだが、あいつらの攻撃は、美しくなかった。


 気が滅入る。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る