退魔学院の最強コンビ! ~蒼き風使いと霊瞳の乙女~
カユウ
第1話 蒼き風の帰還
春の柔らかな日差しが降り注ぐ中、俺は最後の上級魔と対峙していた。周囲の木々がざわめき、緊張感が空気を震わせる。
「ふん、小僧一人で俺様に立ち向かうとはな。その服装、退魔学院の生徒だろう。ひよっこ如きに何ができるというのだ?」
上級魔は醜い顔をゆがめて笑う。その姿は人の形をしているが、肌は灰色で、目は赤く光っていた。全身から邪悪な気が立ち昇り、周囲の空気を歪めている。
俺は深く息を吸い、右手を前に突き出した。これが最後の敵だ。ここで決着をつければ、やっと学院に戻れる。そう思うと、胸の奥に熱いものが込み上げてきた。
「退魔学院の名にかけて、
俺の叫びとともに、周囲の空気が震えた。上級魔の目が驚きで見開かれる。
「な……何だこの気配は!?」
俺は素早く上級魔に近づき、右手に霊力を集中させた。拳が青白く光り、空気を切り裂くような音を立てる。
「喰らえ!【霊撃衝】!」
拳が上級魔の腹部に突き刺さると、衝撃波が周囲に広がった。上級魔は吹き飛ばされ、何本もの木をなぎ倒して地面に叩きつけられる。
「ぐおおっ!」
上級魔は苦痛の叫びを上げた。
「こ、この小僧……!」
しかし、上級魔はすぐに立ち上がり、俺に向かって突進してきた。その速度は尋常ではない。
俺は咄嗟に身をかわしたが、上級魔の爪が頬をかすめ、熱い痛みが走る。血が滴り落ちるのを感じたが、構っている暇はない。
「まだまだ!」
俺は叫び、再び上級魔に向かって突進した。
両者の拳と爪がぶつかり合い、衝撃波が森全体を揺るがす。木々が折れ、地面にひび割れが走る。俺と上級魔は互いに譲らず、激しい近接戦を繰り広げた。
上級魔の爪が俺の胸を掠め、制服が引き裂かれる。痛みに顔をしかめながらも、俺は諦めなかった。ここで負ければ、多くの人々が犠牲になる。そう思うと、体の奥底から力が湧いてくるのを感じた。
「はあああっ!」
俺の叫びとともに、拳から放たれた霊力の波動が上級魔を直撃する。上級魔は再び吹き飛ばされ、大きな岩に叩きつけられた。岩が砕け散り、土煙が立ち上る。
「く……くそっ……」
上級魔はよろよろと立ち上がったが、その動きは明らかに鈍くなっていた。
今だ!俺は右手を前に突き出し、全身の霊力を集中させた。
「【
俺の周りに青い風が渦を巻き始めた。その風は次第に強さを増し、やがて轟音とともに上級魔に向かって猛烈な勢いで吹き付けた。
「な……なんだこの風は!?」
上級魔の驚愕の叫びが風に消されていく。
邪悪な気を帯びた妖魔の体が、まるで砂のように風に溶けていく。青く輝く風が上級魔を包み込み、その存在を徐々に浄化していく。
「ぐああああっ!こんな……こんな、ことが……」
上級魔の悲鳴が風に消されていった。数秒後、そこには何も残っていなかった。
俺はほっと息をついた。やれやれ、これで長引いていた依頼も全部片付いたな。新学期が始まってから3週間も経ってしまったけど、やっと学院に戻れる。
「お疲れ様、蒼宮くん」
声の主は、俺の後ろに立っていた中年の男性だった。黒いスーツに身を包み、顔には深い皺が刻まれている。
「ありがとうございます、
村上
「君の蒼嵐の威力には毎回驚かされるよ。まさに2級退魔師にも引けを取らない浄化能力だ。単独でここまでやってのけるとは、本当に驚いた」
「いえいえ、まだまだです」
俺は照れくさそうに頭を掻いた。
「それに、村上さんに比べれば未熟者もいいところですよ」
村上さんは優しく微笑んだ。
「謙遜する必要はないさ。君は退魔学院のエースだよ。さて、そろそろ帰還の準備をしよう。新学期が始まっているんだろう?早く学院に戻った方がいい」
「はい、ありがとうございます」
俺たちは、この山奥から最寄りの町へと向かった。途中、村上さんが話しかけてきた。
「そういえば、蒼宮くん。今年の新入生とは顔合わせしたのかい?」
「いえ、春休みからこっち任務に出っ放しだったのでまったく。でも、俺のように4級退魔師の資格を持っている新入生はいないみたいってことは聞いてますよ」
俺は冗談交じりに言った。
村上さんは軽く笑った。
「まあ、どう考えても君は例外中の例外だよ。5級退魔師は退魔学院卒業レベルと言われているけどね。それは最低レベルであって、生徒が合格できるものじゃないんだよ。それを1年生のうちに合格するなんてね。そのあと続けて4級まで取ったもんだから、未だに君の経歴詐称疑惑が消えないんだよ。蒼宮くんみたいな例外はいないだろうけど、才能ある生徒は毎年入ってくる。今年も面白い生徒がいると思うよ」
「へえ、楽しみですね」
俺たちは電車に乗り、退魔学院のある東京郊外へと向かった。車窓から見える景色が、都会へと変わっていく。やっと帰れる。春休みから3週間も任務が長引いてしまったからな。ふと、俺は自分の孤独を感じた。退魔学院の生徒唯一の4級退魔師免許持ち。3年生には5級退魔師免許を持っている人が何人かいる。だが、生徒のうちに4級退魔師免許を取ったのは、過去10年でも俺くらいだそうだ。そのため、俺に気軽に話しかけてくる友人と呼べるような人は少ない。むしろ3級や2級の退魔師免許を持っているすごい人たちのほうが気軽に声をかけてくるくらいだ。もう少し友達が増えると、学院に通いやすくなるのかもしれないな。
最寄り駅に到着すると、村上さんとはここで別れることになった。
「ご苦労様、蒼宮くん。我々のほうで退魔協会東京支部に報告に行くから、君はしっかり休んでくれ」
「はい、ありがとうございました」
俺は村上さんに一礼し、退魔学院への道を歩き始めた。春の陽気が心地よく感じられる。
学院の門をくぐると、懐かしい風景が広がっていた。桜の花びらが舞い、新緑が目に鮮やかだ。
「おかえり、颯」
校舎の前で待っていたのは、幼なじみの
「ただいま、沙織。相変わらず生徒会の仕事で忙しそうだな」
沙織は肩をすくめた。
「まあね。それにしても、あんた春休みどころか新学期に入ってからも3週間も任務だったんでしょ?ちゃんと休めてる?」
「ああ、大丈夫だって。村上さんたちが報告してくれるって言ってたから、今から寮で休むよ。あ、そういや新入生の様子はどうだ?」
沙織は不思議そうな顔をした。
「珍しいわね、あんたがそんなこと聞くなんて。もしかして、気になる子や知っている子でもいるの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。こっちの戻ってくるときに村上さんと新入生の話になってさ」
俺は戻ってくるときの電車の中での会話を伝えた。
「ふーん」
沙織は意味ありげな笑みを浮かべた。
「まあ、特に変わった情報はないわね。でも、明日からの授業を楽しみにしておきなさいよ。新入生との対面も控えてるしね」
「わかったよ」
俺は寮に向かい、荷物を解いた。窓の外では、夕日が茜色に空を染めていた。明日からまた普通の学院生活か。そう思いながら、俺はベッドに横たわった。しかし、どこか胸の奥がざわついている。まるで、何か大きな出来事の予感がしているかのように。
俺は目を閉じた。明日からの授業再開。そこで俺を待っているものは、一体何なのだろうか。そして、どんな新入生たちと出会うのだろうか。胸の高鳴りを感じながら、俺は静かに目を閉じた。
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