49:食糧も気力も尽きて


「よ、よおシモン。………元気か?」


 恐怖の「こづくりハウス」で僕とリンはそういう仲になった。

 冷静に考えてみれば、大貴族の一人娘とロダ村のシモンが…なんだけど、出逢ってわりと最初から僕とリンは気が合って、そして恋人同士になって、つき合うことになった。

 冷静に考えてみれば、冗談にもならない。


「カイ。なんか目が死んでるぞ」

「兄弟、お前もな」


 個室の扉を開けて炊事場に向かうと、カイがしゃがみこんでいた。

 僕もなんとなく隣にしゃがみこむ。


「とりあえず……、おめでとう、シモン」

「ありがとう。カイも…仲良くしてたか?」

「は、はははは」


 力なく二人で笑う。

 我ながらなんなんだ、この状況は。



「今日はどうするっすー? あーしは元気だよ?」

「私も頑張ります」


 やがて四人揃ったところで食事にする。

 今回は山小屋に泊まるので、いろいろ食料を持ち込んでいた。

 僕がいつも作るただの鍋だけど、以前より肉も野菜もだいぶマシになった。


「うめぇ! シモンは天才だ!」

「うん」

「いや、リンが答えなくていいだろ」


 なお、僕たちは小屋の外で食べている。

 炊事場は小屋の中にあるが、中にいるとまた発情してしまう。

 そう、発情だ。


「一発で火がつくあれ、魔道具かなー」

「さぁ…。誰も見たことないのか?」

「ないなぁ」

「うん」


 こすっただけで火がつく道具とかが常備してある炊事場は、エンストア商会にもほしい使い勝手の良さ。

 僕はそこで、他の三人――特にリン――に離れてもらい、一人で黙々と鍋を用意した。


 樹里様には、着火の道具よりも調理場を小屋の外に変えてほしい。

 もちろん、僕たちが飯を食べている小屋の外は安全地帯の外でもあるので、普通なら非常識なお願いだ。

 しかし、発情しながら料理は厳しい。

 ちゃんと装備をつけたリンがちらっと見えただけで、下半身が硬直して記憶が飛びそうになる。


「なぁ兄弟。普通の小屋に戻るスイッチがあったらいいと思わないか?」

「ダメです」

「ダメだねー」

「なぜ即答!?」


 全身筋肉のカイとは思えない名案だったのに。



 そうして食べ終わる頃には、今回のダンジョン攻略はここまでにして、帰るという結論が出た。

 なぜかって?

 四人の食欲がすごくて、持参した食べ物がなくなってしまったのだ。


「まだ足りない…」

「リンちゃん、そんなに頑張ったのー?」


 そこでマッキーが不用意な一言を口にしたせいで、その場の空気が凍りついた。

 まぁ…、四人とも人間を捨てた一夜だった。

 というか、たぶん一夜ではない。怖くて確認してないが、もう昼も過ぎてるはず。

 食糧問題以前に、時間切れになりそうだ。

 はぁ…。



「おうおうおう! 我を土まみれにするとは何たる不敬!」

「はいはい悪かった」

「貴様、まるで悪いと思ってないであろう!」

「はいはい悪かった悪かった」


 その後。

 小屋の片隅に積まれた灰と砂の山から、悪霊憑きの刀セイリュウを掘り出した。

 昨日小屋に入った僕が、まだ正常な判断ができているうちにやったのだ。

 さんざん罵声を浴びたが、もちろん後悔していない。

 こんなものが部屋にあったら、僕とリンはどうなっていたか分からない。



 こうして、今回の探索は終わった。

 九階安全地帯に転移してスタート、九階ボスを倒すのが主な目的だったとはいえ、十階奥までしか行かずに引き返した。管理事務所に報告したら呆れられそうだ。

 事務所に「こづくりハウス」の存在を明かす?

 男女二組が仲良く帰ってきたのを目撃されたんだぜ? さすがに恥ずかしくて言えるかって。


 そもそも、本当に「こづくりハウス」は僕たちが初めて発見したのかも怪しい気がする。

 あの部屋に入ったら、報告するだけで邪推される。

 よくある男五人パーティが「こづくりハウス」に一晩泊まったとか報告したら、周りの見る目が変わってしまう。

 まぁ…、僕とリンは一度は我慢できた。

 男五人だって我慢はできるんじゃないかな。うむ。


「ただいまー」

「楽しかった?」

「あ……はい」


 エンストア商会に帰ったら、樹里様が迎えてくれた。

 ものすごく邪悪な笑顔で。


「好評で良かったなー。ボクもさー、みんなが仲良くなったらいいなって思ったんだよ。リンも……満足できた?」

「あ…………、は、はい!」


 いや、今の間は何だよ、リン。

 僕は正直、途中から半分記憶なくしてる。

 「こづくりハウス」内では、どれだけ運動しても回復するし弾切れにならない。

 だから僕の身体はいつもより元気なくらいだ。

 でも、心の方はそこまでもたないんだ。


「リンとマッキーには、ボクがいろいろ教えてあげるよ。立派な魔法使いになれるよ」

「お、お願いするっす。あーしを弟子にしてくださいっ!」

「私も…、よろしくお願いします。お義母様」

「んー、いいよいいよー、ボクに任せて」


 ………。

 気がついたら、カイと見つめ合っていた。


 こんな時こそアオさんの出番なのに。

 逃げたな。

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