不幸から始まる最強冒険者
udg
0:冒険者パーティ「不幸の女神」
「シモン、右手前に動いて。カイ、盾で一歩前へ。マッキーは」
「突くよー」
「よっしゃあ! いいぞ相棒!」
「リン、準備はできたか!?」
「…うん」
世界一の難易度を誇る、タイゾウダンジョン二十五階。
最近ようやく攻略された階層で、先輩冒険者たちが助けを求めてきた。
僕たち四人組パーティは、事務所に指名されて救出にやって来たんだ。
「ひ、ひぃ…」
先輩冒険者五人組は、三人が気絶、残る二人もガタガタ震えて言葉もしゃべれない。
その視線の先にいるのは、棍棒を振り回す巨大な黒オーク。たまに現れる徘徊ボスだ。
踏み潰されれば一瞬であの世行きだけど、筋肉自慢の巨漢カイが盾で抑える。上半身裸の非常識野郎、ただし身体強化で岩より硬い。盾より本人の方が頑丈だ。
その陰からマッキーが剣で突く。お下げ髪の長身筋肉女は、こちらも胸の辺りしか隠してない。というか、胸なのか筋肉なのか見分けがつかない…と口にすると殴られる。ちなみにマッキーの一撃は、岩が飛んで来たみたいに死ねる。
そんな怪物二人と一緒に戦う僕は、鍛えてはいるし身体強化もしてるけど二人ほどじゃない。ちゃんと黒一色の鎧と兜を着けて、二人のように肉体を見せつけてもいない。
二人より頭一つ背が低いので、どうせ並んでも強そうに見えないから。
だけど…。
「今宵の我も血に飢えておるぞ!!」
「うるせえ!」
最近ダンジョンの冒険者に流行り始めた、漆黒なのに妙に目立つ防具をジャラジャラ鳴らしながら、僕はマッキーの反対側から飛び出した。
そして、カイの鍛えられた上半身より太い黒オークの片脚に向かい、刀を振り抜いた。
悪霊憑きの刀セイリュウは、けむくじゃらな太い脚をすっぱり切断して刃こぼれもない。しゃべらなければ最高だ。
しゃべらなければ!
「次はお嬢の番かのぉ」
勝手にしゃべり続けるセイリュウの刃が光り、片脚を失った黒オークはバランスを崩して顛倒した。
「行け! リン、セイリュウが呼んでる!」
「うん。第四階梯、テッセキ!」
そのまま僕が刀を上に掲げると、それに合わせてフードで顔を隠した魔法使いリンが攻撃魔法を放つ。
突き出した両手のひらから現れた稲妻は、黒オークではなく僕の刀に命中。そのまま刀に巻きついて行く。
まばゆい光を放つ刀を、僕はただ黒オークに向かって思いっきり振るう。
次の瞬間には周囲が光に包まれ、何も見えなくなった。
「ギィエエエエエエェェーーーーー!」
セイリュウの力で増幅された雷撃が加わった一振りは、オークの巨大な首を真っ二つに両断した。
断末魔の声もすぐに途切れ、轟音が響きわたる。
視界が元に戻る頃には、赤い血をゴボゴボと噴き出しながら、首のない黒オークが前のめりに倒れていた。
「よっしゃぁ! 相棒、兄弟、リン!」
「おっつかれー!」
「ばっちりだ、リン」
「うん」
カイがなぜリンだけ本名で呼ぶのか謎だが、そんなことはどうでもいいくらいの快勝だ。
四人でハイタッチ。
僕だけ背が低いので、ぴょんぴょん飛び回るのもお約束。
みんなデカすぎなんだ。僕だってロダ村じゃ普通だったのに。
「ま、マジかよ。あの黒オークを一撃って」
「信じられねぇ」
背後では、助けを求めてきた冒険者たちがざわついている。
リンは注目されるのが苦手だから、彼らが近づかないよう僕が護る。
といっても、僕よりリンの方が背が高いし、彼らの視界から隠すことはできないけど。
「シモン………かっこよかった」
「リンの魔法がすごいんだ。本気出したら四十五階も一撃だな」
「そ、そ、そこまでは………ない。あとシモンかっこいい」
「あ、ありがとな」
「うん。……かっこいい」
フードに顔が隠れていても、どんな表情なのか分かるくらいデレまくりのリン。立ち止まっていると、いつまでも同じことを繰り返す。
向こうは向こうで、カイとマッキーがいちゃいちゃしてる。いつもの光景だが、観客がいるので、素早く次元収納に討伐した黒オークを入れる。
黒オークは状態が良ければ金貨200枚はもらえる。頭と片脚以外は無傷で倒したから、満額に近い査定になるはず。
これで今日もおいしい飯が食えそうだ――――。
「シモン」
「え?」
「………今日も可愛がってあげる」
「あ、ああ」
人目をはばからず抱きしめられる。
リンはいろいろデカいから、窒息して別の意味で昇天してしまいそう…だけど、飯食った後も楽しみだなぁ。
僕たちは、不幸の連鎖で出逢ってしまった。
いつか覇を唱える四人組の日々は、まだ始まったばかり…じゃないかな。
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