♯2 衛星軌道ステーションと隊長職《オフィサー》について

「衛星軌道ステーションが企業連合にとっての要所なのは今更言うまでもないと思うが、実際連合の物資のうちおよそ四割があの基地を経由していた。君たちの把握しているデータでもそうなっているかな?」


「えぇ、誤差5%で我々の推定値と合致します」


「それは結構」


 レオンは食事を終えたのち、ジロと入れ替わるように病室へやってきた調査官に聴取を受けていた。


取り調べというには弛緩した雰囲気だったが、それも当然である。捕虜への尋問ではなく、過酷な任務を終えて帰還した同胞が相手なのだ。

「そこまで一極化させることができたのも、前線の同志たちが各所の宇宙港を叩いてくれたおかげだ。頭が下がるよ」


「ご謙遜を。各支部の襲撃成功も内部からの情報あってこそでしょう」


 彼らの話す通り、最終決戦の舞台となった衛星軌道ステーションは企業連合の最重要拠点だった。

企業連合は惑星外に本拠地を持つ星間企業メガ・コーポの集合体である。当然、補給物資の搬入と採掘資源の搬出のためには宇宙港が必要不可欠。


特に衛星軌道ステーションは、少ない燃料と高い頻度で輸送が可能な軌道エレベーターを備えた最も効率の良い大規模宇宙港だった。


勿論、惑星アーレアの各所にも企業連合の宇宙港がいくつか存在していた。特定の港に物資が集中すれば、一度の襲撃で補給線を断たれるリスクが高くなるからだ。


内部に潜入し第四隊長の地位まで上り詰めたレオンは、その権限を利用して味方の襲撃を手引きした。

そうして各支部を弱体化させた上で要である衛星軌道ステーションを陥落させれば、その損失を補填できず企業連合軍は撤退せざるを得ない。それが独立推進機構の狙いだった。



「しかしレオンさん、隊長オフィサーになるとは大胆不敵というか……権限は多いほど良いのかもしれませんが、偽装した身分で幹部になれるものなのですか」


「企業連合の構造的欠陥を突いた、と言ったところかな。名前の通り彼らは“連合”だ。いくつもの星間企業メガ・コーポが資源獲得のために商売敵と渋々手を組んでいる。当然、どこが主導権を握るのか常々争っている……アーレア侵略の片手間にね」


「足の引っ張り合いをしながら戦争ができるとは、余裕があって羨ましい限りです」


「はは、まったくだ。彼らが一致団結していたら到底敵わなかっただろうさ」


 取調官の皮肉に、レオンはクスリと笑う。


「さて、隊長オフィサーの話だったね。端的に言えば隊長になるには実力さえ示せばいいんだ」


「成果主義……というやつですか」


「そう。さっきも言ったように企業連合は一枚岩じゃない。事実上のトップはアキハ・フューチャー・テクノロジーズだが、それも第一隊長と第二隊長がその席を実力で勝ち取ったからだ。実地試験場コロシアムでね」


 実地試験場コロシアムは連合の保有する実験施設で、そこで行われる模擬戦闘の様子は時折り公開されていて、武器のプロモーションや戦意高揚、或いは威嚇のために独立推進機構へとリークされることすらあった。


「……待ってください。コロシアムでってことは企業への貢献度とか作戦成功率ではなく、マシンで戦って議席を奪い合うという意味ですか?」


「そうだ、わかりやすいだろう?」


「わかりやすいですが……いいんですか、そんな原始的で」


 取調官は訝しむ。冷徹な合理主義で動くメガ・コーポのイメージとそぐわない気がしたのだ。


「まぁ勿論それだけってわけじゃないんだが、評価のほとんどは戦闘スコアだ。理屈としてはマシンの整備からパーツの調達、優秀なオペレーターの採用といった総合的な人員の統括力が戦績に現れる……ということらしい」


「なるほど……」


「方便だよ。要するに殴り合いではっきり格付けすれば禍根も少なかろうって話さ。あるいは、後から文句を言わせないくらい徹底的に面子を潰す場、という側面もあるんだろう」


「では、第一隊長ファースト・オフィサーが戦闘しか能のないお飾りという噂は……」


「事実だよ。この制度は誰でも主導権を狙える平等なコンペティションと見せかけて、強化人間技術に明るいアキハ社に有利な環境……要するに出来レースというやつだった。しかし満を持してアキハ社が送り出したシュネー・秋波・ベルフラウは、同社の警備部からエントリーしてきた一人の男に大敗を喫したんだ」


「それが第一隊長……“エース・オブ・エース”だったんですね」


「ああ。彼に野心がなかったのは幸いだったが、負けた以上は仕方ない。ここで覆せば他社への面子も立たないからね。だから実務能力のない彼でも、勝ち続ける限り主席隊長なのさ」

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