第四隊長の述懐~#はいたい 番外編~

マカロ2号

♯1 元・第四隊長《フォース・オフィサー》 レオン

「では、聴取をはじめます。名前と所属、階級を言ってください」

「レオン・ケリー、企業連合軍C.U.F.第四隊長フォース・オフィサー……そしてアーレア独立推進機構I.P.A. 情報部特別捜査員だ」



─────────────────────



 目を覚ましたばかりの男は、ベッドに仰向けになったまま天井を見つめる。彼が寝かされていた部屋は殆どがベッドに占められていて、病室としては窮屈だった。


「…………天井が高いな」


 それでも彼が解放感を覚えていたのは、マシンのコックピットと比べればよほど空間的余裕があったせいだった。空気は僅かに埃っぽいが、衛星軌道上で戦っていた時のエアタンクのものとは比べるまでもない。


 男が点滴のチューブに気を使いながら身体を伸ばしていると、ノックの後ドアが開く。入室してきた男はベッドへ向かい敬礼した。指先までまっすぐ伸ばされた手、きっちりと整えられた髪、几帳面な性格が表情にも表れている男だった。


「隊長殿、ご無事でなによりです」


「君もね、副隊長殿


 ベッドの上の男──『隊長』と呼ばれた彼は、敬礼する男へ皮肉っぽく笑いかけた。


「私はもう隊長オフィサーではないし、君も副隊長サブ・オフィサーじゃない。そうだろう、ジロ君?」


「はっ、失礼しました」


「相変わらず固いな。今ならレオンと呼び捨てにしてくれても構わないが……冗談だよ」


ジロへの軽口を渋面で返され、レオンは彼の相変わらずの真面目さにクスリと笑う。


 惑星アーレアの資源を独占するべく活動していた企業連合軍C.U.F.。レオンとジロは共にその第四部隊に所属していた同僚だったが、その正体は連合軍の失脚を目論むアーレア独立推進機構I.P.A.の潜入工作員だった。


「あれから何日経った?」


「衛星軌道ステーションの陥落から3日です。すべての戦域は2日前から停戦状態。臨時政府と企業連合で終戦条約について協議中です」


「作戦は成功、か」


 両軍の戦いが終結した今、二人の潜入任務もまた終わりを迎えている。無論、犠牲なしにというわけにはいかなかった。衛星軌道ステーションでの戦いでは基地内部での破壊工作や前線での攪乱など、レオンと共に潜入した兵たちは危険な任務に挑んだ。


「……どれくらい残った?」


「死者・行方不明者が17名、重傷者はあなたを含めて8名、と言ったところです」


「……そうか」


 同胞の死を悼み、レオンは窓の外を見つめてしばし沈黙する。当のレオンも布で隠れているが片足を失っていた。ジロが自分の足に視線を向けないよう気遣っているのを察したレオンは、冗談交じりに笑う。


「似合いそうな義足を見繕ってくれ、新政府樹立のパーティに相応しいやつを頼む。それまでにダンスくらいは踊れるようにしておくさ」


「はっ、お任せください」


「さて、この後は聴取かな? できれば先に何か食べたいんだが……」


 ふぅ、と息を吐いて肩をすくめるレオン。しかしジロはまっすぐな視線で彼を見つめ、意を決して口を開く。


「──もっと先に、知りたいことがあるのではないですか」


「……敵わないな、君には」


 ジロに見透かされ、レオンは秘めていた問いを明かす。それは彼が最も知りたい情報であり、しかし濁しておきたい事でもあった。


「戦友……“ジョーカー”は、無事か?」


 壮絶を究めた衛星軌道ステーションでの最終決戦。そこでレオンと肩を並べ戦った傭兵“ジョーカー”。レオンが戦友と慕う彼は惑星アーレアで名を馳せた強者つわものであり、最終作戦ではレオンと共に最大の障害たる第一隊長ファースト・オフィサーを撃破した。


 しかしレオンのマシンはその戦いで大破し、自身も負傷。直後に奇襲しててきた第二隊長セカンド・オフィサーと“ジョーカー”の戦いを見ていることしかできなかった。


レオンは、これまで何度も不可能を覆してきた戦友ならきっと大丈夫だと信じている。しかしあの状況での生存確率は相当に低いと現実的な判断を下しているのも事実であり、曖昧なままにしておきたい気持ちから安否を問えずにいたのだった。

 

それを察しながらも、ジロは正確な情報を伝える。それが自分の役割だと信じて。


「──“ジョーカー”氏は行方不明。目下捜索中であります」

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