武内明の報告書 ——破損の事後処理ほど面倒なことは無い編——
氷雨ハレ
前編 ―—部長って面倒事押し付けられるから嫌なんだよ―—
某日、金曜日。
「————で、大区民シリーズの夏季限定焼き西瓜ムースケーキ事件の犯人は————」
「うわぁ、ネタバレされちゃったぁ〜っ。本当に
「まーね。推理小説は俺の人生の九十パーセントを占めるのさ。
「えー、私はいいかなぁ。ん、なんか部室から甘い匂いしない? また
いつも通りの談笑、部室である第三理科室への道中、貫くような叫び声が廊下に響いた。
「端子が折れた!!!!!」
「どうしたどうした。何があったんだ?」
クイズ研究部部長の
「あー部長、おはよう」
そう言ったのは会計の
「今は十六時過ぎだがな。状況は?」
「早稲田式早押し機の本体に繋ぐスイッチカウンターの端子が折れたんだよ。ほら、この細長い金属棒」
そう言って稲葉はスイッチカウンターの端子を二人に見せた。確かに端っこが無くなっている。
「でも、スイッチカウンターが壊れても何とかなるんじゃない? 所詮は便利グッズだし……」
「そうだけど、問題はそこじゃなくてね。電源コード側に折れた端子が詰まっちゃったんだよ」
「てことは、端子は接続中に折れたってこと?」
「多分ね」
「それじゃあクイズ出来ないじゃん!」
はぁ、と
「報告書に書く内容は、『壊れた物品』『壊れた日時』『壊れた原因』、それと『壊した人』だね」
「あぁ、部長としていつも思うよ。このクソみたいな慣習、どうにかならないかってね。別に壊した人を書いたところで何も起きないというのに。そこの欄のせいで部長の仕事が増えるんだ。全部会計に丸投げしたい」
「まーまー
「くっくっく、
高らかに宣言する
「私、帰ってもいい?」
「なわけ、お前も強制参加だ」
「
「えぇー」
「ねーねー
「「嫌だ」」
ガックリと肩を落とす
「みんなー注目! 端子が折れたこと知ってる人ー! 誰か何か教えてー」
部室内の黒板前、
「じゃあ私から」
そう言って右手を少し挙げたのは
「私と
「
そう
「となると事件は三時四十分から四時までの二十分間にあったんじゃない?」
「そうだな。事件発覚は誰が?」
「それは俺が」
そう言って手を挙げたのは
「クイズを始めようとしたけど、電源が入らなくてね。もしかしたらコードが刺さってないんじゃないかと思って抜いてみたら折れてたんだ。その時点では今居るメンバーは全員居たよ」
「途中で帰った人は?」
「それは居ないわ。少なくとも私達が来てからは部室から出ていった人はいない」
それを聞いて
「つまり……犯人はこの中にいる……ってコト!?」
それから十分。クイズが出来ないので各々が好きにしている中、
「僕は
そう言ったのは
「現状、あの二十分であれに触ったのは三人だけだ。一番怪しいのは白証明が出来ない
「お前なぁ。本当にクイズをしたいならそのタブレットゲームを止めて推理をすればいいじゃないか」
「やだね。今スコアを競っているので」
「あーあ、マスが埋まってゲームオーバーだ。
「……私の勝ち」
小さく喜ぶ
「最初に開けた時の炭酸って勢いいいよね。メントスどう?」
横からメントスを差し出してきたのは
「いらない。てか、今日も沢山のお菓子持ってきたな」
「沢山じゃないよ。今日はメントスと、プリッツ、後はポテチの大袋。これだけさ。『今日も』というなら、君もコーラは毎日のように飲んでいるじゃないか」
そう言って
「なあ、
「無いね。僕はお菓子とゲームがあればそれでいい」
そう言って
「迷宮入りしそうだし、私、帰っていいかな?」
「ダメだ
「分かってるって。でも何の進展もないよ。そこで麻雀をやってる
「
「
「なぁ、さっき
部活が始まって五十分、しびれを切らせた
「ちょっと、どうして責めるのよ。
「うっせえ、
それを見ていた
「不味いな」
「何が? 家に帰れないこと?」
「そうじゃなくて……あのままだと、
「? どういうこと?」
「
「自白すればいいじゃん。そうすればみんなハッピーだし、私も家に帰れるしね」
「あのなぁ、ちょっとは
そう言うと、
「
「おい! 今、オレが……」
「ちょっと黙ってて。私の帰宅が懸かっているの。黙れないなら顔面蹴るよ?」
「ハイ」
「私、早くに来て、
「何か変だったことはある?」
「変……? そう言えば、来た時逆側の戸棚が空いてた。いつもは使わないのに」
本体とコード、子機は全て戸棚の左側に入っている。しかし、普段使わない右側が空いていたのだという。
「分かった。情報ありがとう。
「私は……あ、そうだ。本体を置く机の場所がベタベタしていたんだよね。そのせいで私が拭き掃除をする羽目になったんだよね。多分、
「
「落としてないよ。昨日の問読みは
あれ? と首を傾げる
戸棚の右側といえば部誌が入っている。歴代十年分の部誌である。それ以外には何もない。それ目当てだとしても、第三理科室という学校の中でも辺鄙なところに来るのは、余程の物好きかクイ研くらいである。
「今日、部誌取りに来た人いる?」
そう
「それはオレ達だ。今日の昼休みに
「……全て正しい。私がお願いした」
なるほど、と呟き考え込む
「ねぇ部長、このスイッチカウンター新しいんだね。まだ保証期間内だ」
「この端子、素材は銅がベースとなっている。確かに金属だし、一、二ヶ月前に開けたやつだからまだ劣化もしていない端子だ。でも、強い力を、それも意図的に掛ければ簡単に折れる」
「意図的に、か。————少し情報を整理したい。
「えーっ、お家帰りたい」
「馬鹿言うな。始めるぞ」
「まず昨日の部活の終了時からだ。昨日の部活では端子は正常に作動していた。まぁ、折れてなかったということだな」
「昨日の『片付け押し付けデスゲーム』は誰が負けたんだったけ?」
片付け押し付けデスゲームとは、クイ研の恒例行事である。活動の終わりに限問三十のクイズをし、不正解または最後まで正解出来ずに残った人が片付けをするというものだ。
「昨日の敗者はいなかったはずだ。確か全員が抜けたはず」
「なら問読みが片付けをしたってことだね。ざんね〜ん」
「お前、その先生は教科担任じゃないだろ……まぁ、いい。そこから翌日の昼休みまで、おそらく誰も部室に来ていないだろう」
「どうして来てないって分かるの?」
「部室である第三理科室は教室棟四階にある。俺達の教室から最も遠い場所だ。余程の理由がない限りは来ない」
「で、その『余程の理由』ってのが部誌だね」
「あぁ、そうだ。
「そうなの? まーいいや」
「そこから放課後までは誰も来ていないだろう。理由はさっきと同じだな。そして、放課後になる」
「
「そうだな。でも、まだ犯人と決めつけるのは早い。その後、問読みになった
「じゃあ、やっぱり犯人は
「ま、現状ではそうだな」
「でもここからが絞れないよねぇ」
「そうなんだよなぁ」
溜息を吐く
「あれ?
「
「でも本当に止まってるんだって。ほらスマホの時間を見てみて」
そう言って
「ま、じ? じゃあ、あの時計は十分前から止まってたってことかよ」
「そうだね。壊れて時間がズレていても、案外気づかないものだね。あ、
「あのなぁ————ん? 待てよ」
壊れて時間がズレて
端子は折れてたんだ
中に端が入っていて
気づいたのは
「待てよ」
「どうしたの、
「端子は————既に折れていたのかもしれない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます