ガチャみたいな能力の偽聖女ですが、運だけで世界を救います!
さとこよ
第1話 嘘!?私が聖女様?
「ビタリナ・セラフィス、聖女試験合格――!」
頭上に響いた声に、ビタリナは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
合格? 私が?
周囲の人々がどよめき始めた。試験会場に集まっていた見物人たちが、聖女に選ばれたビタリナを見つめている。目が合うたびに彼らの驚きの表情が伝わってきた。
「えっ、まさか……」
心の中で何度もその言葉が繰り返される。自分が聖女に選ばれるはずがない。今もなお、膝が震え、冷たい汗が額を流れる。
試験会場に集まっていた他の候補者たち――名門の貴族家出身や、特別な力を持つと言われてきた才能ある少女たち――彼女たちは全員、強大な力を披露していた。炎を操り、風を召喚し、光を放つ奇跡の数々。ビタリナは彼女たちに完全に圧倒されていた。自分が挑むには到底叶わない相手ばかりだった。
それなのに、なぜ?
目の前で、試験の審査員たちが厳かに頷き、ビタリナに向けて頭を下げる。会場中央には輝かしい聖女の象徴である「聖光の花」が浮かんでいた。それは一度に一人の聖女しか咲かせることができない神聖な花。まるで天からの選定を受けたかのように、ビタリナの足元に花びらが降り注いでいる。
彼女は確かに、自分の目の前で奇跡を起こした。しかし、あれは何かの間違いだったに違いない。ずっと、自分の力は他の候補者に比べれば取るに足らないものだと思っていた。ビタリナは村の小さな神殿で地道に修行していたが、ここに来るまで一度も大きな奇跡を起こしたことがなかった。
今回の聖女試験でも、彼女の期待は限りなく低かった。試験の最後の段階、彼女が聖なる力を祈りに込め、神に向けて心を捧げた瞬間、自分が失敗したと確信した。手に感じたのは、いつもの弱い力だけだった。それは、他の候補者たちが示した力の半分にも満たないものだったのだ。
しかし――その瞬間、奇跡が起きた。
光が彼女の周りに満ち、会場全体がまばゆいばかりの輝きに包まれた。まるで神が彼女に手を差し伸べたかのように、ビタリナは信じられないほど強大な力を発揮したのだ。まさか、こんな奇跡が起こるなんて……。
「ビタリナさん! 本当にすごいわ!」
突然、後ろから声が聞こえた。振り返ると、同じ候補者の一人、アミノア・フェリアがそこにいた。彼女は驚きながらも、笑顔でビタリナに駆け寄ってきた。アミノアは試験の間中、何度も圧倒的な魔力を見せつけていた実力者の一人だ。そんな彼女が、信じられないといった顔でビタリナを見つめている。
「まさか、本当にあんな奇跡を起こすなんて……ビタリナさん、あなたすごいのね!」
「え、ええと……ありがとうございます、でも……私、本当に何が起こったのか……」
ビタリナはまだ状況を把握できていない。自分が起こした奇跡は何かの間違いではないかと、不安と混乱で頭がいっぱいだった。
すると、護衛騎士のプロテイン・アーデリスが歩み寄り、静かにビタリナを見つめた。彼の鋭い灰色の目は何かを悟っているようで、その冷静な視線が彼女に向けられていた。
「ビタリナ・セラフィス様、王国の聖女として認定されました。どうか、今後はその責務を果たされますように。」
彼の落ち着いた声が響く。しかし、その言葉がビタリナには重くのしかかる。
聖女――。彼女が憧れ、目指してきた高みだったはずなのに、今やその称号はただの重荷のように感じられた。
「……本当に私でいいんでしょうか?」
ビタリナは小さな声で呟く。しかし、周囲の熱気と期待に押され、彼女はただ頷くしかなかった。なぜ自分が選ばれたのか、その理由がわからないまま、聖女としての未来が彼女を待ち構えていた。
その瞬間、彼女は一つの決意をする。「絶対にこの奇跡は秘密にしておかなければならない」と。
ビタリナはこの瞬間から、聖女としての人生を歩み始めた。だが、この栄光の裏に隠された真実――それは、彼女の持つ力がランダムであり、全くコントロールできないということだった。
1ヶ月前――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます