ぼっちの俺が歩む旅路

ひたち3号

第1話 春休みの日帰り旅

 ガタンゴトンと列車の音が車内に響く。春休みではあるが今日は平日、この田舎の路線はガラガラだ。朝始発で最寄り駅を出て、どれくらい経ったっけ。


 腕時計を見ると針が真上を向いていた。そろそろ降りて昼飯でも食べるか。まあ金がないから駅そばで済ますとしますか。


「かけそば1つで」

「あいよ」


 そば屋の不愛想なおじさんに少々恐れながら、腹を満たした。なんで食券じゃないんだよ。まあ、俺のような中学を卒業したばかりのガキにはこれで十分だろう。降りたついでに少々街を散策し、駅に戻る。


 改めて思うが、これ中学生のやることではないのでは?


 ホームに戻るとさっきのがらんとしていたホームに、わんさかと高校生のような人たちがたくさんいた。今日は修了式かなにかで早帰りになっていたのだろう。田舎の鉄道は学生によって支えられていることを実感する。


 アナウンスが鳴り、列車が近づく。この辺りはワンマンの2両編成で運行されることが多い。なかなか席を取るのは難しいのではないかと思ったが、運よくボックス席を取ることができた。


 大勢の高校生が乗ると同時に、同い年くらいの一人の女の子が乗ってきた。


「あ、ここ座ってもよろしいですか?」

「どうぞ、聞かなくても大丈夫ですよ」

「そうなんですね!」


 どうやら女の子は列車に乗るのは慣れていないようだった。マニアの俺としては、しっかり乗り方を教えてあげたいが、ぼっちで友達いない俺は話すべきなのかどうかさえわからない。というわけで恐る恐る聞いてみることにした。


「どこまで行くんですか?」

「柏駅までなんです。高校からそっちに引っ越すことになって」


 これは驚いた。最寄りが同じ駅とは。


「奇遇ですね。俺もその駅まで行きますよ。」

「えっ! 偶然ですね! 実はあまり電車に乗ったことがなくて、たどり着けるか不安だったんです」


 マニアとして、案内しなければならない。(使命感) というわけで、しばらくの間、彼女とともに移動することとなった。


「そういえば高校からってことは、中学を卒業したばかりってことですか?」

「そうなんです。本当は家族と車で向かう予定だったんですけど、地元の友達とお別れの挨拶をしたかったので、自分で後から向かうことになっちゃって」


 確かに彼女は目鼻立ちも整っているようだし、友達も多そうだ。俺とはかけ離れた人種だな。まあ、今だけの付き合いだk——


「私、新庄真奈っていいます。あなたは?」


 いきなり名前聞いてくるよやっぱ陽キャじゃん……


「俺は水前寺涼太。あなたと同じ15歳です」


 俺は名前だけは寺とかついて立派だよなぁ。名前聞いて出てくるのこれだぜ?


「本当に? あなたはなんでこの電車に乗ってるの?」

「一人旅ですよ。俺の趣味の一つです」

「同い年なんだからタメでいいよ。それにしても一人旅が趣味だなんて大人だね」

「友達いないからね。それに一人だと気楽で楽しいから」


 たぶん勧めても合わないだろうなぁと思いつつ、列車に揺られる。


 何度か乗り換えを挟み、柏駅についた。ここの駅前は千葉の渋谷と言われるくらい栄えている。これであとは大丈夫かな。


「今日は本当にありがとう。水前寺くん」

「家までの道は大丈夫か?」

「うん。お父さんが迎えに来てくれるみたい」


 俺もそろそろ帰るとするか。


「じゃあな。高校生活楽しみなよ」

「ありがとう。またどこかで会えたら嬉しいな」


 そして彼女は新しい家へ向かっていった。


 旅先で出会った人と交流したのは初めてだったが、案外悪くないものだと思う。ぼっちの俺には少々眩しい人ではあったがな。


 でもなんだろう、根拠はないけどあの子とまたこれから会う気がする。俺も少しだけ新しい高校生活に期待していた。


 

 




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