漫研部はリアルか嘘か分からない!
ぷろっ⑨
第一項目 序章というより茶番劇
「…
「フフッ…部長、俺が嘘をついたのは1年前のコミケだけですよ…」
凍てつくような冷たい空気の漂う暗がりの部室で、私、
副部長である
「私は言ったはずだぞ…我々オタクの集まりには_」
「俺だって!スタヴァでキャラメル濃いやつ頼んでる陽キャとか!ネットで〝ぴえん〟だの言ってる
女子との交流は避けたかったんですよ!」
加代は拳を強く握りしめ、スナック菓子とジュースの並ぶ机の上へと大きく叩きつけた。
「でも…俺は遭遇してしまったっ…!遭遇しちまったんだよ部長!ラブコメ展開ありきたりの
陰キャがヒロインを救けるあの瞬間にッ…!」
「何…だと…!?」
ここ、
漫研と言ったものの、基本的には部室で菓子を広げながら漫画を描いているだけの部で、
かなり緩めな部活である。
どうも皆さん、はじめまして。
漫研部所属の2年生、
基本的には茶番なのでスルーしてもらって構いません。
先生方が部室の蛍光灯を取り替えるように言われて来てみたら、この状況。
やれやれと溜息をつきながら、幸は加代の後ろを素通りして新品の蛍光灯を箱から取り出す。
この部室は元々倉庫扱いだったので天井が低く、机に乗ればすぐに変えることができる。
「馬鹿野郎…加代テメェ!馬鹿野郎が!」
ぷるぷると震えていた三琴は突然、加代の胸ぐらを掴み、狂ったようにその手を右へ、左へと
振り回した。
「漫研の掟を忘れたのかお前はァ!私達のような陰キャ根暗なモブ属性100点満点の人間は、
陽キャを部室に招かない!これが1条目だろ⁉」
(朝倉さん、私そんな掟決めた覚えないんですが)
内心ツッコみながらも、幸は使えなくなった蛍光灯を外し、1度机から降りると今度は新品の蛍光灯を
持って再び机の上に乗った。
この何とも言えないアホのような会話は、私と朝倉さんが先に帰った昨日の放課後、加代くんが
巻き込まれた出来事が原因らしい。
(ま、今はこれが楽しくて良いんだけどね)
蛍光灯がパチっとはまったのを確認し、幸は机から軽くジャンプして着地すると、壁際にある部室の
スイッチをリズムよくパチッ、パチッ、パチっと押した。
蛍光灯を付け換えた部室の中は、パッと明るくなり、ついさっきまでシリアスな雰囲気の漂っていた
のが嘘のように、文化祭でふざけて作った漫研のパネルや、あちこちに貼り付けられたアニメや映画の広告ポスター。部室の隅には段ボールにはち切れんほど詰められている週刊誌。
歴代の部長が残していった同人作品や、オリジナル作品の原稿は、今も作品制作のために
スナック菓子の横で積み上げられている。だが失礼なことに、この1ヶ月は誰も手を付けていない。
「と、言ったけど加代は結局どうすんの?」
先程までの緊迫していた茶番劇はどうやら終わったらしい。
三琴は机の上に置かれているポテトチップスの袋をバリッと開け、年季が入り、色が薄れてきている
ソファに座り込んだ。
「正直言うと、俺リアル美女にはあんまり興味無いからパスかな」
同様に、悔しげな表情をしていた彼の姿は無く、無関心な様子でカバンから缶コーヒーを取り出し、
机の横に立てかけてあったパイプ椅子に腰を下ろした。
「加代くん、昨日何があったの?」
「なんか加代がラブコメ主人公ルートに落ちそうだったらしいぞ」
幸が加代に言うと、口元をコンソメパウダーで汚した三琴が指を舐めながら答えた。
「なんか知らんが昨日の放課後さ、丁度新刊発売日だったから加代、本屋寄ったらしくて
そのときにホクホクな状態の彼が路地裏でお嬢様校のご令嬢を助けたらしいんだよね」
加代はコーヒー缶を左手で揺らしながら、もう片方の手で額を覆った。
リアルな可愛い子の事で悩まされるなんて、何を贅沢な!と思われるかもしれないが、
この漫研のメンバーは現実での恋愛耐性がはっきり言ってゴミなのである。
「それで今日、この後近くのファミレスで話をしないかと…昨日家に電話が入ってたらしくてな」
「ナニソレ怖っ!住所教えた?」
「会ったばっかりでいきなり住所教える系のイケメンなんて、少女漫画でも相当気が狂ってるぞ…」
今日は本来ノー部活デイなのだが、加代に相談があると言われた三琴と幸は、彼の身に危険が迫っている
のでは無いかと耳打ちを始める。
2人にすら目を向けれていない加代本人は、頭をポリポリと掻くと、深く息を吐くと、バッと
勢いよく立ち上がった。
「よし!俺はこれから待ち合わせ場所へと直行する!」
「えー、それ大丈夫なやつ?加代ってヤンデレとかメンヘラ地雷じゃなかったっけ」
三琴は眼鏡をかけ直しながら、心配そうに聞く。幸は何とも言えないまま、「行かないほうが良い」
と首を横に振る。
時刻は現在3時27分。待ち合わせ時間は4時30分。丁度あと1時間ほどしか時間は残されていないが、
加代は既に覚悟を決めたのか、それとも今更怖じ気付いたのか、フフフと気味悪く笑い始めた。
「大丈夫だ…なぜなら_お前ら2人にも着いてきてもらうからな!」
数秒後、キメ顔でそう言い放った加代の顔面に蛍光灯の箱が飛んできたのは言うまでもない。
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