第14話 お風呂はやっぱり最高
モンスターの死骸から素材を採って王都に戻ると、すでに日は暮れて夕方になっていた。
四人はギルドへの報告は次の日にして、宿屋に帰ることにした。
共同で泊まっている宿屋に帰って真っ先にしたことは……入浴である。
「キャッホーイッ♪」
身体を軽く流しただけのアイシスが真っ先に湯船に飛び込んだ。
白い肌にはタオル一枚付けていない。生まれたままの姿である。細いわりに豊かなバスト、長い脚が剥き出しになっている。
「ちょっと、アイシス! ちゃんと洗ってから入りなさいよ!」
後から浴室に入ってきたローナが仲間に苦言を呈する。
その後ろからレーナとエベリアも入ってきた。
「えへへ……ごめんね。でも、他に誰もいないから良いでしょう?」
「お湯が汚れたら、後から入る人に悪いでしょ……まったく、本当に非常識なんだから」
言いながら、ローナがしっかりと身体を洗っている。
「それにしても……仕事の後の入浴は最高だな。魂まで洗われるようだ」
「だよねー。やっぱり、お風呂がある宿屋にして良かった」
湯を浴びて手足をストレッチしているエベリアに、アイシスが「ニヘヘ」とだらしなく笑う。
パーティーを組んで冒険者として本格的な活動を始めてから、アイシスは宿を変えて別の場所で寝泊まりしていた。
前の宿屋もサービスが行き届いていて悪くはなかったが……仲間と同じ宿屋の方が何かと便利だし、こちらの宿屋には広い浴室があるからだ。
アイシスも年頃の少女だけあって入浴が好きだった。
田舎にいた頃は騎士の娘とはいえ贅沢はできなかったので、浴槽にたっぷりの湯を張って入浴するなど月に一度しかできなかったので猶更である。
「宿賃はその分だけ高くなっちゃったけど……この心地良さには勝てないよねえ」
「ん、間違いない」
「そうね……異議なしよ」
レーナとローナも湯船に肩まで浸かり、ゆったりと寛いでいる。
女性用の浴室には四人以外には誰もいなかった。おかげで遠慮なく温まることができる。
「お金には困ってないから急ぎではないが……そろそろ、パーティーのホームが欲しくなってくるな」
「いいね。絶対にお風呂ありの物件ね!」
エベリアの言葉にアイシスも楽しそうに応じた。
現在は宿屋暮らしをしている四人であったが……前々から、パーティーの拠点となる物件を探している。
冒険者にとってホームの購入は一つの壁だ。『戦乙女の歌』はベテラン冒険者の仲間入りしようとしていた。
「お風呂がある家、高い」
「そうよね……全員の希望を叶えたら、賃貸でもとんでもない額になるのよね」
レーナとローナが並んで溜息をつく。
当然であるが、王都は田舎よりも土地や家の価格が高い。
ましてや一人一人の部屋や風呂まで完備した物件となると、そうは見つからない。
「一等地とまではいわないが……ギルドや市街地からあまり離れると不便だからな」
「女の子だけだし、治安の良いところじゃないとダメだよね。私とエベリアさんは襲われても問題ないけど」
「……私だって女だぞ。アイシス、お前もだ」
「私は大丈夫だよ? やせっぽっちの私を襲う人なんていないって」
「やせっぽっちね……」
エベリアが湯船の中のアイシスの身体をジッと見つめる。
たしかにアイシスはやせている。十五歳の少女であることを考慮しても。
ただ……その身体つきが貧相かと聞かれたら、そうではない。
胸は同年代の女子よりもよっぽど膨らんでいた。腰が締まっている分だけ実際のサイズよりも大きく見える。
「……アイシスは十分、魅力的よ。その胸、また大きくなったんじゃないの?」
ローナが自分の乳房を両手で抑えて、恨めしそうな顔になる。
細身ながら発育が良いアイシスに対して、ローナの胸は平坦でまな板のようだった。
「そうかな? 確かに、最近下着がきつくなってきたような気がするけど……ごはん、いっぱい食べてるからかな?」
「アイシスは十五歳だからな。まだまだ成長期なんだろう」
「クッ……リーダーだっておっぱい大きいじゃない……男みたいな性格のくせに」
エベリアの胸もかなり豊満に実っている。
鎧を付ける際、いつも苦労して中に詰め込んでいることをローナは知っていた。
「気にし過ぎだ、ローナ」
「そう。ローナにはローナの良いところがある」
言葉とは裏腹に、レーナがグッと自分の胸を前に突き出してきた。
双子の姉妹であり、背丈も足の長さもまるで同じのレーナであったが……何故か胸のサイズだけはローナよりもレーナの方が育っている。
レーナはフォローを入れるふりをして得意げに笑っており、明らかに貧乳の妹を煽っていた。
「クッ……レーナだってアイシスよりも小さいくせに……!」
「でも、ローナよりは大きい。ゼロと一は全然違う」
「誰の胸がゼロよ! 少しは膨らんでいるもん!」
「そう、ローナの胸はちゃんとある。バナナの皮一枚分くらい」
「ウキイイイイイイッ! 馬鹿にするなああああああっ!」
ローナがレーナに襲いかかり、姉妹が浴槽の中で取っ組み合いのケンカを始めた。
「キャアッ! もー、二人ともお湯が飛んでくるよう!」
「まったく……他に客がいたら大迷惑だな。やっぱり、早めにパーティーのホームを探した方が良さそうだ」
「うん。自分達の家だったら、いくら遊んでも迷惑かからないもんね」
暴れる姉妹から距離を取りながら、アイシスとエベリアが改めて話し合う。
「今回の依頼、わりと報酬が良かったんでしょ? 家とか買えるんじゃないの?」
「うーん……確かに、貯金と併せれば安い家を買えなくもないが……どうせホームを手に入れるのならば良い家を選びたいからな。安物で妥協したくはない」
妥協して中途半端な場所を選ぶよりも、しっかりと厳選した家を購入したい。
無鉄砲なアイシスとは違い、パーティーリーダーであるエベリアは慎重派なのだ。
「そうなると、もっと資金が欲しいな。ローンを組むのは仕方がないにせよ、せめて十分な頭金を手に入れないと……」
「ローンって借金だよね? 私達にお金を貸してくれる人がいるの?」
「高利貸から借りるつもりはない。パーティーの拠点を買うためだったら、国が貸してくれるからな」
「あ、そうなんだ」
セイレスト王国では、国内で活動している冒険者が家を購入・賃貸する際に金を貸してくれるという制度がある。
一定以上の信用がある冒険者だけに適用される制度だが……今の『戦乙女の歌』であれば十分にその資格があるだろう。
荒くれ者の冒険者に金を貸すのには不安と思うだろうが、購入するのが物件であれば持ち逃げは不可能。返済できなければ容易に差し押さえもできるので踏み倒される心配はない。
また、拠点を確保させることで冒険者が国に根付かせて、国外に流出するのを防ぐこともできる。
「この制度はかつて隣国で行われていたものを真似したものだそうだ。もっとも、隣国ではその制度はすでに撤廃されているそうだが」
「何で? 国も冒険者もみんな得をする制度じゃないの?」
「何でも、この制度を作った人間が犯罪者として追放されてしまったとか……まあ、私達には関係のない話だな」
エベリアが肩をすくめる。
「アイシスは知らないようだが……この国には冒険者を育成するための学校もあるし、私達はかなり優遇されているんだぞ? そのおかげで、隣国からも冒険者になりたいと移住してくる者がいるくらいだ」
「へー、そうなんだ。それじゃあ、この国に生まれてラッキーってことだよね?」
「そういうことになるな……さて、他に人が入ってきたから、そろそろ出ようか」
徐々に他の宿泊客が浴室にやってきた。
エベリアはまだケンカしている姉妹の頭をはたいてやめさせて、二人を連れて浴室から出ていく。
「私もいくー。お腹が空いてきたからね」
アイシスもまたウキウキとした足取りで、浴室から出ていった。
今日の夕飯のおかずは何だろうと心を躍らせながら。
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