第12話 やりすぎちゃった(テヘペロ)
かくして……コボルト退治からの変異種登場という異常事態は、アイシスの手によってあっさりと収束させられた。
もしもコボルトジェネラルがこのまま『コボルトキング』になっていたのであれば、セイレスト王国の王都すらも落ちる可能性があった。
それを未然に防止したのだから、アイシスの行動は英雄的であったとすらいえるだろう。
だが……アイシスが世間から称賛をされることはない。
何故ならば……。
「証明する方法がない……コボルトジェネラルが跡形もなく消滅してしまった……」
戦いが終わり、エベリアがガックリと両手を地面につく。
コボルトジェネラルは最低でもBランク以上の冒険者が戦うような敵だ。
それを討伐したとなれば大量の金貨が舞い込んでくるだろうに……如何せん、コボルトジェネラルの存在を証明する手段がなかった。
アイシスの光り輝く拳……『神撃』によって、コボルトジェネラルの身体は跡形もなく消えている。討伐証明となる素材も残ってはいなかった。
「どれだけ利益になったかわからないのに……功績が、名誉が……」
「エベリア、未練たらしい」
「そうですよ、リーダー。もういいじゃないですか」
項垂れているエベリアをレーナとローナが窘める。
「倒したの、エベリアじゃない」
「アイシスさんが倒したのに、報酬や功績を惜しむなんていやしんぼですか?」
「だ・か・ら! 私はそれを惜しんでいるのだろうがっ!」
姉妹の言葉にエベリアが立ち上がり、反論する。
「せっかく彼女がコボルトジェネラルを倒したというのに……本来であれば英雄として持て囃されるべきなのに、誰にもそれを認めさせることができないのが悔しいのだろうが!」
エベリアとて、アイシスの報酬や功績を横取りするつもりはない。
むしろ、アイシスの偉業を世間やギルドに証明できないことが不満なのだ。
「えっと……ごめんね。私が大っきいワンコを消しちゃったせいで」
一方で、エベリアの落ち込みっぷりにアイシスは恐縮していた。
「モンスターを消しちゃったら報酬がもらえないんだね。知らなかったよ、ごめん」
「ッ……い、いや! アイシスが悪いのではないのだ! ただ、君の力を証明できない自分が不甲斐ないだけで……ああ、もうっ!」
エベリアが頭をワシャワシャと強く掻いてから、両手を叩いた。
「はいっ、この話は終わり! みんな切り替えよう!」
「……最初からエベリアしか騒いでない」
「リーダー、みっともないよ」
「うるさい! それよりも……」
気持ちを切り替えたエベリアがアイシスに改めて向き直る。
「詮索をしたくはないが……先ほど、モンスターを消した力はいったい何だ?」
冒険者にとって手の内を探ることは御法度だったが……それでも、どうしても聞いておきたかった。
「斬り落とされたはずの腕も治っているし……最後の一撃。あの籠手はいったい何だったんだ? もしかして、『聖騎士』と呼ばれたという君の父親から教わった秘奥義か何かかい?」
「ううん、違うよ。アレはよくわからないけどできるヤツ」
「よ、よくわからないけどできるヤツ?」
「うん。理由はわからないんだけど、何故かできるんだ。他に言いようがないよね」
「…………」
アイシスの目を見るエベリアであったが……澄んだ瞳に嘘をついているような色はない。
本当に、本気で、その力の正体を自分でもわかっていないのだろう。
「出自不明の力か……君は本当に神が遣わせた戦乙女なのかもしれないな」
「いくさおとめ?」
「いや、何でもない」
エベリアは小さく溜息をついて、アイシスに頭を下げた。
「今回は本当に世話になった。貴女がいなかったら、私達はみんな死んでいた」
「ふえ?」
「先輩風を吹かせて君を依頼に誘ったのに……最初から最後まで助けられっぱなしだった。本当にすまない。そして、仲間を守ってくれてありがとう……!」
「い、いいよいいよ! そんな、大したことしてないもん!」
「大したこと。私達助けた」
「そうそう。アイシスさんは命の恩人だよー」
レーナとローナも頭を下げる。
「君は私達の救世主だ。この恩は一生忘れない」
「ありがとう」
「ありがと!」
「あ、あううううううう……なんか恥ずかしいよう。背中が痒くなっちゃう……!」
しきりに御礼を言ってくる三人にアイシスは妙に気恥ずかしい気分になり、赤くなった顔を両手で押さえた。
モンスターから人を助けて、感謝をされる。
冒険者としてのモチベーションを獲得したアイシスは、改めて田舎から出て王都にやってきた自分の選択が正しかったことを確信したのであった。
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