第37話

 すべての弾倉を使い切り、ホログラムの残骸をかき分けながらエリシアとヴァイはXRH-2を乗り捨て、スペースシップまで全速力で走る。


 サイト14が崩壊する中、秒単位で刻まれるタイムリミットが二人の背後を追い立てていた。




 だが——。




 エリシアの直感が鋭く反応する。彼女の足が止まり、目の前の空気が一瞬で重くなる。


「めんどくさいやつ……」


 エリシアは吐き捨てるように呟いた。


 視線の先に立っていたのは、彼女と似たシルエットの影。




 ——セリス。




 かつてのストーリーで登場した影武者であり、エリシアのもう一つの分身。


 セリスは近接戦を極め、剣技においてはエリシアの魔術を凌ぐ存在だった。




 冷たい視線を送るその姿は、かつてのストーリーの中でエリシアの影武者を担ったことがあるが、今や自立し、彼女自身の意志でエリシアの前に立ちはだかっていた。




 ヴァイは状況を理解しきれないまま、エリシアを振り返り、スペースシップまで走ろうとする。しかし、その腕をエリシアが無造作に伸ばし、片手で制した。




「……斬られますわよ」




 エリシアの声には冷静さと微かな苛立ちが混ざっていた。彼女はセリスを真正面から睨む。




「あなたも、ね」




 その言葉に含まれる警告に、ヴァイは立ち止まる。彼が目の前のセリスを一瞥すると、その剣先が鈍い光を放っているのが見えた。




「チッ……厄介な奴が来やがったな」




 ヴァイは吐き捨てるように呟いたが、その場でエリシアの判断に従うことにした。彼が手を引っ込め、後ろに下がると、エリシアとセリスが向き合う形となった。


 エリシアは冷静に息を整え、セリスと対峙する。二人の間に漂う緊張は、まるで空気そのものが張り詰めているかのようだった。


 セリスがゆっくりと剣を構え、エリシアの動きを見定める。彼女の目は、すでにエリシアの一挙手一投足を追っている。




「まさか、こんなところで再会するとはね……」




 エリシアの言葉にセリスは何も答えない。ただ、その目は確実にエリシアを捕捉していた。




 次の瞬間——。


 セリスが一瞬のうちに距離を詰め、剣を振り下ろす!




 ホログラムのセリスは凄まじい速さで接近し、熾烈な剣技をエリシアに浴びせる。銀光を帯びた剣が空を裂き、一瞬のうちにエリシアの防御を突破しようとする。




「……!」




 エリシアの目が鋭くなる。


 この速さでは、マナ・ドミネートの展開すら許されない。セリスの攻撃は容赦なく、流れるような連撃でエリシアを圧倒しようとしていた。


 エリシアはその剣技をかわしつつ、瞬時に破壊のオーラを放つ。だが——。




「……っ!」




 セリスはそれを知っていたかのように、軽やかにステップを踏み、オーラをするりと躱した。


 まるでエリシアの魔法が来るのを予期していたかのように動く。セリスの剣がまた一閃、エリシアの喉元に迫る。




「この……!」




 エリシアは紙一重でその一撃を回避する。だが、剣の風圧が頬をかすめ、その威力を痛感させた。


 セリスの動きは圧倒的に洗練されている。エリシアの魔法を見切り、体術でも優位に立っている。まるで自分が追い詰められているかのような感覚がエリシアを襲う。




「ふふっ……面白いですわね」




 だが、エリシアの瞳には微かな笑みが浮かんでいた。


 エリシアはセリスの動きを利用し、瞬時に合気投げで投げ飛ばした。だが、セリスは空中で華麗に体を捻り、壁に着地。そのまま再びエリシアに向かって肉薄する。




 サイト-14の崩壊が加速する。


 あちらこちらで爆発が起こり、いくつかの外壁が激しく破壊されると、空気と瓦礫が宇宙空間へ吸い込まれていく。




 その緊迫した状況の中で、ヴァイが動いた。




 エリシアとセリスが揉み合っている隙に、ヴァイはスペースシップまで一気に走り抜けた。


 その瞬間、セリスの視線が一瞬だけヴァイに反応する。エリシアはそのわずかな隙を見逃さなかった。




「今ですわ!」




 エリシアは強烈なフックを放ち、セリスの顔面を狙う。しかし、セリスはその拳を素早くキャッチし、間髪入れずにエリシアの襟を掴んでくる。エリシアはすかさず逆に力を使い、セリスを背負い投げで投げ飛ばす。




 その背後で、スペースシップのエンジン音が轟き始めた。




「エリシア!置いていくぞ!」




 ヴァイの声がスピーカーから響き渡る。だが、その瞬間、エリシアの注意が一瞬だけ逸れた。それが命取りだった。




「っ……!」




セリスの剣が鋭く光り、エリシアの脇腹を貫いた。




「ぐあっ……!」




 鋭い痛みが走り、エリシアはその場に膝をつく。だが、彼女の瞳にはまだ勝負を捨てていない光が宿っていた。




 「さすがは……私の影武者!」




 エリシアは叫びながら、腹を貫いた剣を必死に抑えた。


 ホログラムのセリスは驚いて一瞬動きを止める。


 所詮、これはオリジナルのセリスではない——ただのストーリーの残骸に過ぎない。もし本物だったら、エリシアも片腕くらい失っていただろう。


 剣のホログラムが微かに揺れ、消える。その瞬間、エリシアは全力でセリスを殴り飛ばし、馬乗りになって一気に殴りつけた!




「これで終わりですわよッ!」




 セリスの顔がボコボコに潰れ、崩壊し始めるホログラムの残骸に成り果てる。




「おい、エリシア!早くしろ!」




 ヴァイの焦る声がスピーカーから聞こえる。格納庫の管制室ではデータ回収を終えた職員が、必死にヴァイの方を指差している。




「やばいですわね……!」




 エリシアは崩壊寸前のセリスを掴んで、ホログラムの残骸ごと格納庫の外へ投げ捨てた。そして、脇腹の傷から出血しながらも、スペースシップに向かって全力で走り出す!




 崩壊が迫る中、サイト14を脱出するため、スペースシップのランプに飛び乗った!

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