第34話
爆風が吹き荒れる中、ヴァイはGENプラントの内部を全速力で駆け抜けていた。
あらゆる配管や設備が吹き飛び、周囲には火花とスモークが漂っている。だが、次の瞬間――。
「うおっ!」
轟音と共に巨大な鉄骨が天井から崩れ落ち、ヴァイの足を直撃。
足を挟まれたヴァイはバランスを崩して倒れ込む。メタリックなボディがその衝撃に耐えるも、物理的に足を固定され、動くことができない。
「チッ!たまったもんじゃねえな!」
状況を理解したヴァイはすぐに行動に移る。メカニックボディの強靭さで骨折することはないが、この鉄骨をどかさなければ身動きが取れない。周囲にはさらに爆発の気配が漂っている。
「クソが……!」
フルパワーで腕に力を込めるヴァイ。メタリックな筋肉が軋みを上げるように緊張し、少しずつ鉄骨が持ち上がる。その重さに息が詰まりそうになるが、ヴァイはギリギリで耐え続ける。
「よし……もう少しだ!」
轟音にかき消される中、ヴァイはついに鉄骨を持ち上げ、その下から足を抜く。
ヴァイは鉄骨を振り払うと、すぐさま立ち上がり、全力でタービンエリアを駆け抜ける。
周囲では爆発と衝撃波が響き渡り、あちこちで設備が吹き飛んでいる。スチームが配管から漏れ出し、視界を奪うように漂っているが、ヴァイは迷うことなく突き進む。
「もう少しだ……!」
タービンの轟音と共に、スチームが噴き出す中をヴァイは全速力で駆け抜け、ようやく制御エリアへとたどり着いた。
制御パネルや端末がひしめくこの場所を越えれば、あとはセキュリティエリア。そして正門ゲートが待っている。そこを突破すれば脱出できるはずだ。
「これで、逃げ切りだ!」
だが、制御エリアを抜けた先に、非常灯が赤く点滅しているのが目に入る。何かが動き始めている。
ヴァイは焦燥感に駆られながら、生体ポートを素早く接続する。館内放送のノイズ混じりの声が不気味に響き渡る中、制御端末にアクセスを試みる。
「——はせん!お、お前も……逃がしはせん!」
「くそっ、こんなところで終わるわけにはいかねえ!」
ヴァイは端末のセキュリティを突破しようとするが、目の前のドアは対テロ仕様。
電子ロックだけではなく物理的にも完全に閉鎖されている。赤いランプがどんどん激しく点滅し、周囲に警戒シグナルが響き始める。
「……開けやがれ、ってんだよ!」
思い切り蹴飛ばしてみるが、当然ビクともしない。制御システムへのアクセスも複雑化され、予想以上に手こずっている。
「くそ……時間がない!」
爆風の余波が後ろから押し寄せてくる中、ヴァイは必死に端末への不正アクセスを試みる。
タワーの最下層、崩壊し始めた空間の中で、エリシアは肉片と化したコピーの惨状を無言で見下ろしていた。
床には無数の肉塊が散乱し、かつて人型であったものの形跡は見る影もない。血が粘着質な音を立てて床を覆い、内臓の一部が脈打つように痙攣していた。
裂けた肉の中から覗く骨は、激しい魔力の衝撃でまるで溶けたように変形しており、その周囲には焼け焦げた皮膚が焦げ臭さを漂わせている。
目玉の一つは床に転がり、虚ろな視線でエリシアを見上げていたが、彼女は一瞥もくれない。
「……これが、あなたの末路ですのね」
エリシアは無感情に呟くと、肉片の横に転がるホログラム状の物体に目を留めた。
それはかすかに光を放ち、アノマリーの存在を示している。彼女は慎重にそれを拾い上げると、周囲の血にまみれた瓦礫を踏みしめて歩き出す。
床一面に広がる血溜りが、足元でヌチャッと不快な音を立て、肉片が踏み潰されるたびに、筋繊維と骨の破片がさらに潰れ、腐臭が立ち込めた。
「まったく……見苦しいですわ」
崩壊していく空間の中、エリシアは一度も振り返らず、タワーの出口を目指した。背後にはもはや生命の痕跡がなく、ただ崩壊と共にすべてが終焉へと向かっていた。
霊体化したエリシアは、光の粒子となって空間を漂いながら出口を探す。
彼女の周囲では、あらゆるストーリーのキャラクターや物体、シンボルが宙を漂っていた。
かつて彼らが属していた物語はすでに崩壊し、今や行き場を失った存在たちが、霧のように薄れていくホログラムの中を彷徨っている。
エリシアは無数のイメージを横目に見ながら進んだ。
そこには笑顔の少女、巨大なドラゴン、古びた剣、かつての栄光を誇った都市の遺跡などが交じり合い、ゆっくりと形を失っていく。
彼女はそれに一切の感情を抱かず、ただ出口を見つけることに専念していた。
「すべて消えていく……」
かつて織り成された数々のストーリーが、無情にも終焉を迎えている。その中で、唯一、彼女だけが何か確固たる存在として漂っていた。
浮遊するエリシアの前に、ぼんやりと光る門のようなものが現れた。それは出口を示しているように見えた。霊体化した彼女は迷いなくその光の中へと吸い込まれていく。
「これで終わり……というわけですわね」
彼女の声は、霊体のまま空間の中で静かに響き、消えゆく物語の欠片たちに最後の別れを告げていた。
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