第22話
あるトラック運転手が、荒れた道路を走らせながら車内のラジオに耳を傾けていた。
「……速報です。大型商業船がF-4エリア海上に墜落しました。現在のところ、被害状況は不明です。警察当局は、この墜落事故が先日のGENプラント襲撃と関連しているかどうか、引き続き調査を進めています——」
運転手は眉をひそめ、ハンドルを握る手に力が入る。ニュースの内容がどこか不穏な雰囲気を醸し出していた。
日が沈みかけ、薄暗くなり始めた路上に、一人の女性がセクシーなポーズでヒッチハイクをしていた。
その姿を見たトラック運転手は、思わずブレーキを踏んで車を止めた。
ドアを開けると、その女性——エリシアは涙を浮かべながら懇願した。
「街まで連れて行っておくんなまし〜!彼ピッピに捨てられちゃったのですわぁ〜!」
その泣き顔とお嬢様口調に、運転手は完全に心を奪われ、鼻の下を伸ばして微笑んだ。
「乗りな、嬢ちゃん。街までならすぐさ。」
エリシアは作戦通りとばかりに、ニッコリと笑いながら助手席に乗り込んだ。
車内のラジオは、無機質な声でポリスステーション襲撃の続報を流していた。
「監視カメラの映像によりますと、犯人の特徴は金髪の女性で——」
しかし、トラックの運転手はラジオの音など全く耳に入っておらず、エリシアと楽しそうに雑談を続けていた。彼女の上品ながらも愛嬌のある話し方に、運転手はすっかり魅了されていた。
「それで彼ピッピに捨てられちゃったんですのよ〜」
エリシアは悲しげに微笑むが、その瞳の奥には全く違う光が潜んでいた。
トラックが工業地帯を抜け、街へ続く高速道路のランプに差し掛かった時——。
——ガチャリ。
乾いた金属音が、運転手のこめかみに響いた。冷たい感触に、彼の全身が一瞬で凍りつく。
「ま、というわけで。降りてくださる?」
エリシアは穏やかな口調で微笑みながら、運転手に銃を突きつけていた。
「え……?」
運転手が困惑する間もなく、トラックのドアが勢いよく開けられ、彼はまるで人形のように路上に転がり落ちた。
その直後、後ろを走っていた別の車の運転手が、トラックの運転席から何かが転げ落ちるのを目撃し、驚きで急ハンドルを切った!
「なんだ!?今の……!」
その間にもエリシアは悠々とトラックを乗りこなし、街へ向かって加速していた。
街のネオンが明滅し、いつもの喧騒が続くかのように見えた。
しかし、その喧騒はどこか違う。GENプラントの襲撃を皮切りに、連続する異常事態が街を覆っていた。
テロリストの犯行声明、記者会見中の乱射事件、ポリスステーションへの襲撃、そして大型商業船の墜落——。
緊張感が高まり、当局はついに非常事態宣言を発令した。
街のいたるところに機動隊が展開され、装甲車が通りを睨むように配備されていた。銃を構えた兵士たちは、いつでも発砲できる態勢で待機している。
パトロールカーのサイレンが鳴り響き、空にはドローンが監視の目を光らせていた。街中がピリピリとした緊迫感に包まれ、住民たちは不安そうに足早に歩いている。
高速道路のランプから降りてきた一台のトラックが、一旦停止を無視して通過していく。
その光景を見た白バイが即座に追跡を開始した。
エリシアが運転するトラックは、意外にもあっさりと路肩に停車する。
「お姉さん、急いでます?ここ、一旦停止を——」
——パン!
話が終わる前に、一発の銃声が響いた。
白バイの警官はその場に崩れ落ちる。エリシアは冷然とハンドルを握り直し、トラックを再び動かしながら、そのまま走り去った。
夜のネオンが照らす街並み。渋滞はひどく、車が列をなして動かない。トラックの巨体では、すり抜けることなど到底できなかった。
エリシアは苛立ちを抑えきれず、こめかみに青筋を立てた。
「きえええぇエエぇエええ〜!」
——ガシャン!バリバリバリッ!
エリシアはトラックを強引に車の隙間へ押し込み、金属が擦れ合う音が響く。彼女は赤信号も全く気にせず、猛スピードで突っ込む。
次々と前を走る車を幅寄せし、激突させて道を無理やりこじ開けていく。車が弾かれ、クラクションの音と破壊音が響く中、トラックはまるで猛獣のように街を突き進んでいった。
すぐさま機動隊がスクランブル発進!サイレンが街中に響き渡り、赤いランプが夜の闇を切り裂く。緊急車両が続々と現場に向かい、混乱が広がっていく。
「止まれ!止まれ!止まれ止まれ止まれ〜!」
機動隊員が必死に叫ぶが、エリシアの操るトラックは止まる気配すらない。猛スピードで道をこじ開け、進み続ける。
「PC-03よりPS!トラック暴走中!繰り返す、トラック暴走!至急応援願いたし!こちらPC-03!」
通信が緊急回線で飛び交い、追跡部隊がトラックに追いつこうとするが、エリシアは一瞬たりともペースを緩めることなく突き進む。
すぐさま機動隊がスクランブル発進!サイレンが街中に響き渡り、赤いランプが夜の闇を切り裂く。緊急車両が続々と現場に向かい、混乱が広がっていく。
「PC-03よりPS!トラックは国道を北上中!至急応援を!」
追跡中のパトカーから、緊急通信が飛び交う。
「PSより各員に次ぐ!付近の道路を封鎖せよ!」
指令が瞬時に発せられ、街中の警察や機動隊が次々と配置につく。赤と青の回転灯が至るところで点滅し、封鎖ポイントに警官が集結していく。
「逃がすな!全員配置につけ!」
付近の道路は次々と封鎖され、トラックの進行方向が絞り込まれていく。
トラックのカーナビには、「シャトルベイエリアまでの距離」が表示されている。
そこに至るまでには、いくつもの道路封鎖を突破しなければならない。
シャトルベイエリアは、サイト内でも最も重要な施設「GENプラント」へのアクセスルートを持つ場所。最初の襲撃も、テロリストたちはこのルートを使ってスペースシップでGENプラントに突っ込んだのだ。
エリシアは運転席で苛立ちを募らせる。
「チキショー!遠いですわね!」
舌打ちしながら、彼女はさらにアクセルを踏み込み、迫りくる封鎖ポイントを突破しようとする。
こんな時、もしヴァイがいれば——。
エリシアはふと、あの銀色の男の顔を思い浮かべる。
彼なら瞬時に代わりのアクセスルートを調べ上げ、巧妙に潜入する方法を見つけていたに違いない。だが、今のエリシアにはヴァイのような電脳もなければ、ハッキングに使える端末すら持っていない。
「チッ、こんなときに役立たずですわ!」
舌打ちしながらも、エリシアは自分の力に頼るしかないと、さらにトラックのアクセルを強く踏み込む。
治安部隊の迅速な動きにより、メインロードは次々と閉鎖されていく。
今まで渋滞していた道路が、不気味なほどに静まり返り、車の姿が次第に少なくなる。
「PSより各員、対象の追跡を中止し、当該エリアの確保に努めよ!」
無線通信が一斉に飛び交い、治安部隊は追跡を諦め、代わりにエリアの封鎖と確保にシフトする。
「これよりXRH-2の配備を行う。当該エリアの防弾シャッター強制起動開始!」
指令が発せられると同時に、エリシアが向かう周辺の施設やビルに設置された防弾シャッターが一斉に降り始めた。防御態勢が整えられ、エリシアが狙っているルートは次々と塞がれていく。
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