第20話
エリシアはすぐさまダッシュで物陰に飛び込み、風の勢いから身を守った。
「さっきの話、出任せのようですわね!」
彼女は風の中から声を張り上げ、ヴァイに挑発的に問いかけた。
「なんのことだか!?」
ヴァイはサイドアームを構えたまま、苛立ちながらも平静を装って返答する。
「当局がアノマリーを捨てるとでも?」
エリシアは鋭く続けた。彼女はすでにヴァイの言葉が信用できないと確信していた。アノマリーの重要性を考えれば、そんな重要なキーを捨てるはずがない。
ヴァイは一瞬答えに詰まったが、すぐに狙いを定め、動き出す。
ヴァイはエリシアが隠れている木箱をハンドガンで連続銃撃。
弾丸が木片を飛び散らせ、エリシアの隠れ場所を破壊していく。だが、エリシアは一瞬の隙をつき、バイトを回収しようと再び飛び出した。
「逃がさねぇ!」
ヴァイは素早く反応し、弾丸を浴びせた。だが、エリシアは素早くシールド魔法を展開し、弾丸を次々と無効化する。
「こんなもので私を倒せるとでも?」
エリシアは冷笑を浮かべた。
ヴァイはその言葉に犬歯を剥き出し、笑いながら言い返す。
「そりゃそうだなぁあああ!」
その瞬間、ヴァイはエリシアが驚くほどのスピードで跳躍し、強烈な回し蹴りを放った!
——ガキィン!
一瞬、エリシアはシールドがあることに安心していた。
だが、その蹴りの威力は凄まじく、シールドは一撃で飛散する。
「え、ちょ……」
驚く間もなく、ヴァイはエリシアが構えた左手を殴り、顔面のガードを強引に外させた。そして、強烈な右フックが彼女の顔面に直撃!
「ぐっ!」
エリシアはその衝撃で吹っ飛び、地面に転がった。
——カツカツカツ……。
ヴァイのブーツが床を打つ音が、静まり返った格納庫内に響く。彼はゆっくりとエリシアに歩み寄り、その狂気じみた笑みを浮かべたまま、自分の体を指差した。
「なぁ……何で俺がこんな色してるか知ってるか?」
赤く点滅する非常用のライトが、ヴァイのメタリックシルバーの体を不気味に照らし出す。銀色の体が光を反射し、その異様な存在感が際立つ。
ヴァイは自嘲気味に笑いながら続けた。
「お前みてえな面白え奴がいるからだよッ!」
ヴァイはその滲み出る狂気を隠すことなく、エリシアに追撃を加える。声を張り上げながら、彼の眼差しは冷酷そのものだった。
エリシアは反射的に後方に飛び退き、瞬間的に魔法を放つ。
——サンダーボルト!
高圧電流がヴァイの体を巻き込み、青白い閃光が部屋を満たす。これで終わりだと確信したエリシアは、息を整える。
「これで、丸焦げですわね……」
だが、その直後——。
「充電完了だぜええぇ!?」
「ひえ……」
エリシアは思わず後ずさり、電撃を受けてもなお立ち上がるヴァイの姿に唖然とした。全身に電流を纏い、彼は逆にその力を利用していた。
ヴァイの足が地面を叩く。目にも止まらぬ速さで、彼はエリシアに接近する。エリシアは瞬時にシールドを展開するが、ヴァイのジャブのようなパンチがシールドを軽々と破壊!
「くっ……!」
シールドが砕け散り、エリシアは直感的に次の攻撃を警戒する。
嵐のような暴力が彼女に襲いかかる。ヴァイはさらに激しく殴りつける。
「俺はなぁ……お前みてえなやつを、山ほど挽肉にしてやったよ!」
ヴァイの狂気じみた声が、暴力と共に響き渡る。
エリシアは暴力の嵐を避けるために、跳躍して上部の歩廊に着地した。
だが、ヴァイの反応は異常なまでに素早かった。彼はすかさず消火器を投げつけ、エリシアはギリギリでそれを躱す。
「……!」
消火器はエリシアの足元で破裂し、消火剤が辺りに撒き散らされる。粉塵と薬品の匂いが立ち込め、視界が一気に悪化した。
その混乱の中、エリシアは粉塵の向こうにいるヴァイへ向けて破壊のオーラを連射した!
——バシュ!バシュン!
閃光がヴァイに向かって放たれるが、彼はその全てを「見てから避ける」という異様な動きでかわしていく。彼の動きは完全に人間離れしていた。
ヴァイはそのまま強力なジャンプで歩廊に着地し、狂気じみた笑みを浮かべながらエリシアに迫る。
「依頼なんざどうでもいい!お前みてえなやつをぶっ殺すのが、この仕事の醍醐味ってやつさ!あ゛ぁん!?」
ヴァイの狂気に満ちた声が、消火剤に包まれた空間に響き渡った。彼の動きは、まるで狩りを楽しむかのように無駄がなく、エリシアへの執念が垣間見える。
歩廊の上で、エリシアとヴァイが激しい殴り合いを繰り広げていた。
拳が交錯し、金属の床が鈍い音を響かせる。エリシアの魔法とヴァイの強化された肉体が互いに火花を散らすように衝突していた。
だが、その下で倒れているバイトの指が、ぴくりと動く。
——……ドクン……ドクン……。
遠くから聞こえるような重い鼓動の音。闇の中で、何かが浮上しようとしている。
バイトの瞳が薄く開くが、その意識が戻りかけているのは、果たして本当にバイトなのか——。それとも別の何かが、彼の体を支配しようとしているのか。
その場に漂う異様な空気が、一瞬、戦いの緊張感をさらに高めた。
バイトの電脳が再起動し、意識が浮上してくる中で、無機質なリマインダーが彼に訴えかける。
——警告。残り時間、限界。自爆シークエンス、進行中。
カウントダウンは止まらない。時間が迫っている。
エリシアとヴァイが上で殴り合っているのを横目に見ながら、バイトは冷徹に状況を判断した。激痛を無視し、震える手でシップの端末に生体ポートを接続する。
一瞬で電脳がシップにアクセスし、内部の制御系統を乗っ取る。バイトの目が鋭く光り、手際よく操作を続ける。
「……ヴァイのロック、解除。」
バイトは静かに呟き、ヴァイがかけていたセキュリティロックを外した。これでヴァイの制御は崩れた。そして、カウントダウンが進む中、二人の戦いに新たな要素が加わったことを、まだ誰も気づいていなかった。
エリシアは一瞬の隙をつき、強烈なカウンターパンチをヴァイの顔面に叩き込んだ。
ヴァイの体がぐらつき、エリシアはそのまま歩廊に転がっていた消火器を拾い上げる。
「これでもくらいなさい!」
エリシアは消火器を振り上げ、ヴァイに何度も叩きつけた。
重い音が響き、ヴァイが苦しげに身を捩る。
しかし、その背後で突然、格納庫全体が凄まじい振動に包まれた。
「……何!?」
エリシアは手を止めて振り向き、ヴァイも痛みを堪えながら視線を向ける。
そこには、今まさにシップがハッチを吹き飛ばした直後の光景があった。
猛烈な音と共に、シップが脱出態勢に入っていた。
そして、ヴァイの視界の端には、コクピット越しに勝ち誇った笑みを浮かべるバイトの姿が映っていた。
「あぁ〜!」
ヴァイは歯を剥き出しにして叫んだが、時すでに遅し。バイトはコントロールを完全に奪い取り、脱出に成功しようとしていた。
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