第5話

 エリシアとヴァイは互いに視線を交わしながら、歩み寄ることを決意した。


 それぞれの目的や狙いは依然として不透明だが、今は情報が必要だ。もっとも、エリシアは何も知らないに等しい。自然、ヴァイが話し始めた。




「事件が起きたのは、ほんの数時間前だ。GENプラントの襲撃――テロリストによるものだ。あいつら、手際が良いが、今のところ沈黙を保っている。」




 ヴァイの声は淡々としていたが、エリシアは耳を澄ませた。事態が進行している今、彼の情報は貴重だ。


 ヴァイは淡々と話を続けた。




「GENプラントはテロリストが一度制圧してたが、今は引き上げてる。だが――肝心のアノマリーは、やつらが持ち去ったままだ。」




 エリシアはヴァイの言葉に軽く眉をひそめた。


 引き上げたテロリストが残したものは、ただの混乱と不安ではなかった。彼らが奪ったアノマリーこそ、事態の核心だ。




「つまり、アノマリーが手元にない限り、コアにアクセスすることはできない……というわけですのね?」




 ヴァイはニヤリと笑いながら、頷いた。




「その通りだ。テロリストは、アノマリーを手にしてからが本番だろう。今はまだ静かだが、いずれその力を使ってコアに何か仕掛けてくるはずだ。」


「じゃあ、時間の問題というわけですわね。」


「そういうことだ。」




 エリシアは短くため息をつき、少し考え込んだ。情報は集まったが、どれもやっかいな要素ばかりだ。




 エリシアはヴァイの話を聞きながら、頭の中であらゆる可能性を巡らせた。




 テロリストたちがアノマリーを奪った理由――それが何であれ、彼らが何かを要求するために動いていることは間違いない。


 要求は一体何なのか?


 仲間の釈放?金?それとも何か個人的な恨み?


 一つひとつの可能性が脳裏をよぎるが、どれも決定打にはならない。テロリストがアノマリーを手にした今、何らかの脅迫や取引を試みるはずだ。だが、その狙いが具体的に何なのかは、まだ見えない。


 しかし――


 エリシアの唇が薄く笑みを形作った。どれだけ複雑な思考が巡ろうとも、彼女の中で導き出される答えは常に一つだった。




「……ぶっ潰せば、関係ないですわ。」




 彼女の声は静かだったが、その裏には確固たる決意と冷徹さが込められていた。いかなる理由であろうとも、力で屈服させれば問題は解決する。交渉や駆け引き――そんなものに興味はない。


「つまり、早く見つけて、全部叩き潰せばいいってことですのね。」


 ヴァイに向かって投げかけたその言葉に、エリシアの冷徹な決意が滲み出ていた。




 エリシアとヴァイがそれぞれの思惑を秘めたまま、次の行動を決めるために情報を集めていると、ある筋から新たな情報が入ってきた。




「関係筋の話では、厳戒態勢が敷かれているようですわ。」




 エリシアは軽く肩をすくめながら、ヴァイに話し始めた。


「サイト管理圏にあるスペースシップは、現在すべて運行停止命令が下っているそうですわね。」


 ヴァイが少し顔をしかめる。


「運行停止?」




「そう。つまり、ここに入ることも、ここを離れることもできない。今、どの船も動けない状態ですわ。当局の船が各シップに横付けして、一つ一つひっくり返して調べているそうですの。」




 エリシアの言葉には余裕が感じられたが、その意味は重い。テロリストが脱出しようとするなら、簡単にはいかないということを示唆していた。




「全てのスペースシップがチェックされているってことか……逃げ道はふさがれてるってことだな。」




 エリシアは頭の中で次々と可能性を組み立てていった。運行停止が敷かれている中で、アノマリーを奪った連中がどう動いたかを推測する。




「考えられる可能性としては……」




 まず一つ目は、識別信号を偽装して隠れているという可能性。


 だが、厳戒態勢が敷かれている今、それもリスクが高い。全ての船が厳重にチェックされている以上、長くは隠れ続けられないだろう。


 もう一つの可能性――それは、厳戒態勢が敷かれる前に、すでに離脱しているということ。


 エリシアはふと、ヴァイを見た。




「もしあなたがボスなら、すでに離脱しているでしょうね。」




 ヴァイが軽く口角を上げ、にやりと笑う。


「だろうな。管理圏外に逃げてしまえば、サイト-14の当局には手が届かねえ。」


「そうですわね。あとはスペースポリスが手配をかけるまで待つしかない……」


 もし、すでに管理圏外に逃れているなら、追跡は難しくなる。サイト-14の手は及ばない。その場合、スペースポリスが動き出すのを待つしかないが、連中が捕まる前に手を打つ必要がある。




 エリシアは、今得た情報がどこか雲行きの怪しい事態を示唆していることに気づいた。




 確かに運行停止命令が出され、サイト-14からは出入りができない状況だ。しかし、彼女の頭の中でさらなる可能性が浮かび上がる。




 「事件が発生してから数時間が経過している。 それだけあれば、スペースシップを全速前進させて辿り着けるサイトは、宇宙中に山ほどありますのよ。」




 エリシアは指で空をなぞりながら、さまざまな可能性を口にする。




「連中が既に逃げているとしたら、どのサイトへ向かったかの特定は、ますます困難になりますわ。時間が経つほどに、その可能性は増える。」




 ヴァイはニヤリと笑いながらも、冷静な目でエリシアを見つめる。


 確かに、当局の厳戒態勢は一つの壁だが、もしテロリストがそれを逃れ、すでに別のサイトに向かっているとしたら、状況はますます複雑になる。




「つまり、もうすでに別の場所に移動してる可能性が高いってわけか。」


「ええ、そしてその場所が一体どこなのか――探るのが私たちの次の仕事、というわけですわ。」




 エリシアは静かに結論を出した。

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