エリシア<スターダスト・アノマリー>
@elicia
第1話
無限の星々が散りばめられた宇宙を背景に、人工惑星「サイト-14」は巨大な球体を静かに浮かべていた。
その表面には無数の人工都市が輝き、内部では何百万もの人々が日常を送っていた。しかし、その穏やかな風景を裂くように、管制室の警告音が突然響き渡る。
——ピピピッ!
管制室のスクリーンに赤い光が点滅し始め、そこに浮かび上がるのは謎のシグナルだった。緊張が走り、担当オペレーターが急ぎ確認する。
「アラート!事前承認を受けていないスペースシップが接近中!」
オペレーターの声は明確で、かつ抑えきれない不安を感じさせた。
サイト-14に接近する船は、公式な航路に登録されていない。不審な船がこの高度にまで接近するのは、異例の事態だった。
「詳細は?」
管制長が冷静を装って命じたが、その額には一筋の汗が浮かんでいる。
スクリーンに映し出されたのは、薄暗い外見の船。通常の貨物船や旅客船とは明らかに違う異質な雰囲気を漂わせている。
「識別信号がありません。乗員数も不明……武装の可能性もあります!」
「まさか…テロリストか?」
誰かが小声で呟いたが、それは空気をさらに重くするに十分だった。
人工惑星の膨大なリソースとコアに目をつけた犯罪者やテロリストの噂は、決して珍しいものではなかった。それでも、実際に目の前に危険が迫るとなると、現場の緊張は一気に高まる。
「警備部隊に連絡しろ。応答がなければ、強制的に迎撃するしかない。」
管制長の命令が飛び交う。
だが、その言葉が発せられると同時に、不審船からサイト-14に対して通信が入る。スクリーンに表示されたのはただ一言。
「アクセスを許可せよ」
管制室内の空気が凍りついた。
「アクセスを許可せよ」という不気味な通信が管制室内に響いた瞬間、緊張感はさらに高まった。
だが、その時――
「警備チームを待機させろ!」
管制長の指示が飛び交う中、スクリーンに表示されていたいくつかの無害な旅客機や商業船が突然、異常な動きを見せ始めた。画面が再び赤く点滅し、アラート音が鳴り響く。
——ピピピピピッ!
「え、どういうことだ!?あの商業船が急加速しているぞ!」
「ありえない!あれは通常航行中の船のはずだ!」
管制官たちが混乱する中、複数の旅客機や商業船が一斉に軌道を変更し、急加速してサイト-14の警備網をかき乱し始めた。それは計画的であり、あまりにも巧妙だった。まるで無害を装っていた船が、一斉に牙をむくかのように。
「警備部隊!今すぐ全船の確認を!すべての船が危険領域に入っている!」
「無理です!接近が早すぎます!迎撃が間に合いません!」
オペレーターが叫ぶ。警備システムが警告を発していたが、すでに何機かの船はサイト-14の外部シールドをかいくぐり、接近してきていた。船体が黒煙をあげながら、異常な速度で突進してくる。
——ドガァァァァン!
その瞬間、第一の船がサイト-14の外壁に衝突。爆発音が響き、外部のセンサーが軋みを上げる。続いて、次々と船が警備網を突破し、惑星の周囲はカオスに陥った。
「くっ……何が起きている!?」
管制長は叫び、操作盤に手を叩きつけた。すべてが同時に動き始めた。最初は無害に見えた船が突然攻撃態勢に移り、サイト-14全体が混乱に飲み込まれていく。
「まさか…これもテロリストの計画なのか……!」
管制室の空気は完全に緊張の頂点に達していた。サイト-14のシステムがテロリストによって意図的に混乱させられ、手も足も出ない状態になっていたのだ。
謎の商業船、旅客機、そして……あの接近中の不審船。
管制室の混乱は最高潮に達していた。
次々に異常な動きを見せる船舶、突然起きた爆発、そして全体の流れを見失いかける警備網。全員が何をすべきかを見失っていた。
「目的は一体なんだ?単なる襲撃ではないはずだ!」
——ドガァァァァン!
巨大な衝撃音が管制室に響き渡った。
モニターには、不審なスペースシップの一機が、惑星外部のゲートを突き破る瞬間が映し出されていた。警告ランプが一斉に赤く点滅し、システムの異常を知らせるアラート音が絶え間なく鳴り響く。
「ゲートが破られたぞ!侵入を許した!」
「何をしている!すぐに応戦しろ!」
しかし、管制室の焦りをさらに煽るかのように、突如、惑星全域に緊急アナウンスが響いた。
どこからともなく響く冷静な声が、全員の耳を打つ。
——Ready to Hard Contact!! It's not a drill!!
管制室の全員が一瞬、凍りついた。
状況が急速に悪化し、もはや手遅れに近いことを誰もが理解していた。
次々と警報が鳴り響き、各部署が警備システムの再起動を試みるが、船はすでにサイト-14内部へと侵入してしまっていた。
「くそっ、もう突入されたのか……!内部の警備チームに連絡しろ!」
管制長が叫び、誰もが慌ただしく動き始める。だが、その時、突如としてスクリーンがブラックアウトし、通信が途絶えた。テロリストたちが接近し、侵入した船はただの脅威の始まりに過ぎなかったのだ。
緊急アナウンスが惑星全域に響き渡る中、サイト-14の軍備格納庫では一斉に兵士たちが動き出した。
ライトが煌々と点灯し、無数の影がせわしなく動く。整然と並ぶソルジャーたちが、すぐさま武器を手にし、戦闘準備を進めていく。
——ガシャッ!ガシャッ!
ライフルラックに整然と並べられた銃が次々に取り出され、重い音を立ててマガジンが装填される。
金属がぶつかり合う音が響き、各隊員の表情は緊張感に満ちていた。
ヘルメットをかぶり、アーマーをしっかりと固定した兵士たちが、迅速かつ的確に自分のライフルを構え、弾丸を詰め込んでいく。
「全員、戦闘配置につけ!繰り返す、全員配置につけ!」
「ライフル装填!マガジンを確認!」
士官が鋭く指示を飛ばし、兵士たちは次々と武器を手にしながら待機する。
隊員たちの顔には冷静さとわずかな恐怖が混じっていた。誰もが自分たちが向き合う相手が、単なる反乱者やテロリストではないことを感じ取っていた。
——カチャッ、カチャッ!
マガジンをライフルに装填する音が部屋に響き渡る。続いて、セーフティーが解除され、兵士たちは重厚な銃を構え、戦闘態勢に入る。
「突入準備完了!命令を待て!」
だが、その時、外部の警報が一段と激しく鳴り響いた。
モニターに映し出されたのは、さらに増え続ける侵入船。そして、すでにサイト-14の内部に侵入した敵の動き――誰もが予想しなかった事態が進行していた。
「どうやら、こちらの想定を超えているようだ……!」
士官が呟いたその瞬間、出撃の合図が下される。
「全員、出撃せよ!」
兵士たちが整然と動き出し、次々とゲートへ向かって走り出した。
ライフルを構えた彼らの足音が、惑星全体に鳴り響く。全員が任務に集中しながらも、誰もが心の奥で感じていた。
――この戦いが、ただの戦闘では終わらないことを。
ソルジャーたちが出撃し、戦闘態勢が整った瞬間、サイト-14の至る所で衝突が始まった。だが、想像以上の勢いと戦術で侵入者は次々と警備網を突破していった。
——ダダダダダン!
銃声が響く中、テロリストたちは驚くべき練度と装備を見せた。
彼らの動きは計算されたものだった。無秩序な襲撃ではない。突入部隊は、まるで惑星の内部構造を熟知しているかのように、警備の弱点を突き、正確なタイミングで攻撃を仕掛ける。
「やつら、動きが速すぎる!くそ、正面突破された!」
「なんて連携だ……普通のテロリストじゃないぞ!」
サイト-14の警備部隊は次々と崩壊していく。
銃火器での迎撃を試みるものの、侵入者の防弾装備と正確な攻撃に押し返され、後退せざるを得なかった。
連携の取れたテロリスト部隊は、圧倒的な武力でじりじりと進軍し、次々とセクターを制圧していく。
——バシュッ!
閃光とともに数名のソルジャーが倒れ込む。
敵の狙撃班が正確に部隊の中心を狙い、指揮系統を乱していく。サイト-14の防衛は徐々に崩れ、侵入者たちは目的地へと一直線に進んでいく。
「くそっ、どこまで進むつもりだ……!」
警備隊の一人が呻くように呟く。
その目の前に広がっていたのは、内部の重要施設へと続く通路――その先にあるのは、サイト-14の生命線とも言えるジェネレータープラントだった。
「やつら、ジェネレータープラントに向かっている!」
「全力で阻止しろ!」
残った警備隊が叫び、最後の防衛線に立ちふさがるも、すでに侵入者たちの勢いは止まらなかった。
重装備のテロリストたちは、正確に配置された防衛ラインを次々に突破し、爆発音とともにジェネレータープラントのゲートに到達した。
「ジェネレータープラントに到達!どうする!?どうする!?」
無線で必死に叫ぶ声が響くが、応答はなかった。
——バシュッ、バシュッ!
警備ロボットがテロリストたちによって次々と倒されていく。
無機質な機械の体が地面に崩れ落ちると、そこには焼け焦げた金属片と煙が漂っていた。
最後のロボットが地面に倒れた瞬間――
——ドォン!
ジェネレータープラントの入り口が爆破され、煙が立ち込める中、その中から威圧感たっぷりに現れた男。
――バイト。
黒いコートをなびかせながら、彼は無造作に足を踏み出す。鋭い目が周囲を睨みつけ、彼の背後には武装した部下たちが整然と従っていた。
「口ほどにもないな。これがサイト-14の警備か?」
バイトは倒れた警備ロボットの残骸に目をやり、鼻で笑う。
煙が晴れ、彼の前にジェネレータープラントの巨大な設備が姿を現す。彼の目は、その奥に隠された真の目標を見据えていた。
「回収船の状況は?」
バイトは部下に問う。
即座に通信が返ってくる。
「アノマリー待機プログラムに問題ありません!現在、サイト-14ゲート外を回遊中!」
その言葉にバイトは満足げに微笑んだ。目的はこのジェネレータープラントそのものではない。
すべてはアノマリー――それこそが彼の狙いだ。
「よし、全て計画通りだ。あとは、アノマリーさえ手に入れば……」
バイトは低く呟きながら、ジェネレータープラントを睨みつける。
その内部にある施設は、アノマリーと呼ばれる異質な力を秘めた存在を管理しているのだ。人知れず保管され、長い間その存在が隠されていたが、バイトたちはその価値を知っていた。
「始めるぞ。アノマリーを回収しろ。」
命令が下されると同時に、部下たちが一斉に動き出した。彼らの目的はサイト-14の動力源でも財宝でもない――アノマリーという未知の力、その一点に絞られていた。
バイトの不敵な笑みが、さらに深くなる。
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