番外編2 特別個人面談

01.


A:おう、入れー。


B:失礼します。


A:あいよ。じゃあそっち座れ。今日は私服か。


B:この後、用事があって。時間作ってもらって、すみません。


A:あー、それは構わねえよ。えーと、で、昨日電話で連絡をもらったとおりなんだが……念のため確認な。この写真に写ってるの、お前で間違いないか?


B:……間違いありません。先生が撮ったんですか?


A:いんや、これを撮ったのは別の職員だ。赤坂あかさかがあんな放送をしたからな、学校側からも職員を派遣しないわけにはいかなくなったんだよ。というかお前、こんなにでっかくなれるのな。びっくりしたわ。


B:どうも。……写真、返します。


A:でまぁ、派手にやったなぁ。住人の間じゃ〈シーファイブ〉の最終兵器なんてところに落ち着いてるようだが、お前の敵やらなんやらが目撃していないとも限らない。


B:…………。


A:それで、敵っぽいのも出てきたとかなんとか……逆か。敵っぽいのが出てきたから、お前が壁になったんだよな。で、それが、お前のやつっぽいと?


B:わかりません。出所がわからないんです。行き先も。海から出てきて、山の方に向かっているようでした。


A:ははーん……となると、お前のじゃない可能性も高いってことか。まぁ、それはそれでいいさ。担当する〈主人公〉がどうにかしてくれるだろ。それでだな。ここからが本題なんだが。


B:はい。


A:この後はどうする? また転校するか?


B:…………。


A:転校するとしたら、そうだな……姉妹校か、一般校か。率直に言って、一般校は難しい。お前に人間的な問題があるとは思わないが……一度この学園に引き入れて、かつ能力を喪失していない生徒が、学校の推薦で一般校に転入した事例は、俺の知る限りでは無いな。


B:そうだと思います。


A:だから現実的に進められるとすれば、姉妹校への転入だが……こっちも、時間はかかるだろうし、あんま期待はできない。そもそもお前はここに転校して来た身なわけだから、そこからさらに転校ってなると、問題児のたらい回しって認識になる。


B:はい。


A:だがここに留まるとしても、職員の間じゃ緘口令かんこうれいに効き目はあるだろうが、生徒となると期待できない。お前の能力を知ってるのは誰だ? 赤坂の前では使ってたな。高橋たかはしには見えなかっただろうが。


B:いえ、知ってます。高橋と、赤坂と、それから逆神さかがみ。姉の方です。


A:逆神ミチルか? なんでまた。


B:高橋が話したそうです。それはまあ、いろいろあって、やむを得ず。


A:ほーん……逆神かぁ。んん、いざとなったら、俺から話しておかんでもないけどな。


B:いえ、いいです。一晩考えたんですが……もう、そろそろいいかと思ってます。


A:何がだ?


B:時間切れなのかもしれません。ずっと自分の〈物語〉から逃げてきたけど、いい加減に向き合え、っていう。俺は、自分が何のために生まれたのか知らないですけど。


A:…………。


B:ずっと逃げてこっちまで来て、でももう疲れました。やるだけやって、負けたら後はほったらかしです。赤坂あたりが、どうにかしてくれると思います。


A:…………。


B:…………。


A:お前……。


B:…………。


A:今日は……よく喋るなぁあ……。


B:そうですね。


A:なんかこうしてると、こっちに転入の相談しにきたときのことを思い出すなぁあ。あれだなぁ、あの日もこうやって面談したよなぁ。お前ずーーーーっと黙ってて、いろいろ聞き出すのに苦労したよぉ。いやぁ、でっかくなったなぁ。さっきとは別の意味で。先生なんか感動しちゃったよ。


B:お陰様で。


A:お人好しの猪口いぐち先生が見たら、きっと泣いて感動するぜぇ。最近連絡してるか?


B:まあ……たまに。


A:あらそお。それはそれとして、じゃあ、転校しないんだな。


B:はい。


A:わかったよ。こっちとしても、手続きの手間は無くなるからいいけど……。んん~。いや、けどなぁ……やっぱどうしたもんか……。


B:…………。


A:お前のはさぁ……どう考えても、“アレ”なんだよ。アレ。上手く言えないんだけど……わかる? 〈主人公〉なんてさ、いくらでもいるんだよ。名声を従えて、教祖みたいにふんぞり返って、自分が運命とやらの操り人形だってことも忘れて。……いや、それは言い過ぎだな。けど、それに従うのは、いろんな意味で容易いだろ? だから……この学校が、“何かのため”に作られたっていうなら、俺たちが本当に助けるべきなのは……。


B:…………。


A:……いけないな。おしゃべりは俺の方だったらしい。


B:いえ。


A:ともかく、承知したよ。そういうことで。ただ、猪口先生にだけは話しておく。昨日俺からも連絡入れちまったからな、今日の分も伝えておかないと。


B:よろしくお願いします。


A:……いや? そうだ、お前の口から報告してやれよ。今ここで一通り話したこと。


B:え?


A:ああ、そうだ。そうしよう。あのヘナチョコ激情家に連絡するのなんてめんどくさ……じゃなくて、そうした方が猪口先生も喜ぶ。うんうん。


B:あの、嫌です。


A:だめでーす。業務連絡でーす。はい撤収。


B:…………。


A:……まあ、真剣マジで話すとだな。あの人にも、目ぇかけた生徒に、一言礼を言われるくらいの僥倖ぎょうこうはあってもいいんじゃないのか。じじくさいお前も、年頃だってことは、わかってるけどな。


B:それは……。


A:そんなわけで、よろしくよろしく。おっと、俺が連絡するだろうってのはナシだぜ? 俺は絶対連絡しませーん。


B:……わかりました。電話しておきます。


A:よろしい。


B:……あの、ところで今更なんですが、生徒の連絡っていうのは、学校側から監視されたり、していますか。ただの好奇心ですが。


A:いーや。俺も詳しいわけじゃないから、断言はできないが、それは無いだろうなぁ。ガッチガチに監視対策を整えたいなら、そもそも全寮制になってるはずだし。今は明らかに職員の人数が足りてないし、そこまで手が回るとも思えない。


B:むしろ制度で縛れない分、監視を増やしてるのでは。


A:ああ、それは違いない。でも監視で何かを見つけたからって、結局〈主人公〉たちで片付けちまうのが関の山よ。だから監視も、ただの監視だ。あえて具体的に言えば、今は〈主人公〉たちの事情に譲歩して、学校はあくまで“最低限の管理”をしてるだけのはずだ。それに、お前が猪口先生とやりとりする件に関しては、お前を入学させたのはそもそもあの人なわけだから、恩師への連絡って範囲なら、監視されても特に困ることはないだろ。……何か不安か?


B:……いえ、十分な回答です。というより、そこまで話して大丈夫なんですか。


A:ま、俺たち職員も、なんでも知ってるわけじゃない。どこまで行っても憶測だから、機密漏洩には当たらない。じゃあ、まあ、そっちから連絡な。にしても、どういう心境の変化だ?


B:何がですか。


A:いやあ? ずっと保守路線だったお前が、大一番に出るなんてな。


B:そうでしょうか。〈主人公〉が、然るべき〈物語〉に入るだけでしょう。


A:〈主人公〉か。お前が〈主人公〉に、ねえ。くくっ……うん、いいこった。


B:まあ、そもそも入る〈物語〉が無いって可能性もあります。


A:そんなことねえさ。自分で道を選んだ瞬間から、人は誰しも〈主人公〉なんだぜ。……おおっと、そろそろ時間だ。行かないと。


B:ええ。ありがとうございました。


A:そんじゃ、カズによろしく。じゃないな、猪口先生な。


B:はい。お疲れ様です。


A:ああ、じゃあな。

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