気心知れた幼馴染
「ルフィーナお姉様!」
鈴の音が鳴るような、溌剌とした声が響く。
ふわふわとしたブロンドの髪にムーンストーンのようなグレーの目。小柄で可愛らしく強気な顔立ちの令嬢がルフィーナの元に駆け寄って来た。
彼女から「ルフィーナお姉様」と呼ばれているが、ルフィーナは一人っ子だ。彼女は当然ながらルフィーナと血が繋がっている妹ではない。
「リュダ」
ルフィーナは表情を綻ばせる。
リュダこと、リュドミラ・ユーリエヴナ・ストロガノヴァ。彼女は今年十六歳で
「先程
リュドミラは心配そうにルフィーナを見ている。
「ジーナ様達が質の悪い方々……。本当にそうなのかしら? でも、特に何もなかったわ。いきやり手を滑らせて飲み物をこぼしてしまったから、脳神経に異常をきたしていないか心配になったけれど」
ルフィーナは困ったように苦笑した。
「まあ、それで撃退しましたのね。流石はルフィーナお姉様」
リュドミラは誇らしげな表情になった。
「リュダ、だから言っただろう。ルフィーナなら大丈夫だって。ルフィーナはおっとりしているようで危機管理能力はあるんだから。色々と鈍感なところはあるけれど」
穏やかな男性の声が聞こえた。
「あら、サーシャ。
ルフィーナはクスッと笑い、その男性の方を見る。
サーシャこと、アレクサンドル・ステファノヴィチ・ラスムスキー。
褐色の髪にヘーゼル目。女性なら誰もが振り返るような端正で甘めの顔立ちだ。
今年十八歳になるラスムスキー侯爵家長男で次期当主。そしてリュドミラの婚約者でもある。
「だってルフィーナお姉様に何かあったらって思ったら
「リュダは私の婚約者なのに、いつもルフィーナ優先で妬けちゃうね。ルフィーナを追いかけて君もナルフェック王国に留学した時は寂しくて仕方なかったよ」
若干拗ねたような表情になるアレクサンドル。心底リュドミラを愛していることがよく分かる。
リュドミラもルフィーナと同じくナルフェック王国のラ・レーヌ学園に留学していた。そして今年の
「男性の中で一番はもちろんサーシャよ。手紙だって二週間おきに送ったわ。でも女性の中での一番はルフィーナお姉様なの。それではいけないかしら?」
懇願するように小首を傾げるリュドミラ。小動物のようで可愛らしい動作だ。
(リュダはいつでも可愛いわね。サーシャが夢中になるのも分かるわ。サーシャがリュダの婚約者になる前は、よく
ルフィーナの頬は緩んでいた。
「ああ、もう、リュダには敵わないなあ」
アレクサンドルは肩をすくめ、困ったように微笑むのであった。彼のヘーゼルの目は、愛おしげにリュドミラを見つめている。
クラーキン公爵領、ラスムスキー侯爵領、ストロガノフ伯爵領は隣接しており、家同士の仲も非常に良い。よってルフィーナ達は幼い頃から交流があった。いわゆる幼馴染だ。それ
「あ、そうだ。ルフィーナはクラーキン公爵領名産のクランベリーをネンガルド王国に輸出することを考えていたよね」
ハッと思い出したようにルフィーナに話を振るアレクサンドル。
「ええ。ドロルコフ公爵家の長男と共同で長期間保存可能な方法を開発したから、ネンガルドや他の国への輸出を広げたいと思っているわ。今年の社交シーズンが始まる前にも、その技術開発に役立ちそうな本を探しに宮殿の図書館へ何度か通ったもの」
ルフィーナは自身ありげに微笑んだ。
ちなみに、宮殿の図書館は事前に許可を取っていれば入ることが可能である。
「今度シュメレフ侯爵家の長男を紹介するよ。シュメレフ侯爵領ならクラーキン公爵領からもそこそこ近いし、ネンガルド王国まで行きやすい大きな港がある」
「そうね、お願いするわ。サーシャ、ありがとう」
ルフィーナの表情は明るくなる。
「
「ああ、それは助かる。是非お願いするよ」
アレクサンドルはヘーゼルの目を輝かせた。
「ルフィーナお姉様、
自信ありげな表情のリュドミラ。
「そうなのね。じゃあお願いするわ。リュダが言うならきっと間違いないわね」
ルフィーナは優しく微笑んだ。
「ごめんなさいね、令嬢仲間はいつもリュダから紹介してもらってばかりだわ。
やや困ったように微笑むルフィーナである。
「
可愛らしい表情のリュドミラである。
ルフィーナ自身でも人脈を広げてはいるが、こうしてアレクサンドルやリュドミラからも色々な人物を紹介してもらっている。
ルフィーナも同じように、アレクサンドルやリュドミラにとって助けになりそうな者を紹介することもある。
しかし、その容姿や立場
ただ、それでもリュドミラがいてくれるのでルフィーナは満足しているのである。
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