彼女に双子がいたのを知らなかった俺が彼女に散々に振られる話

ミナトノソラ

第1話

 俺には彼女がいる。

 名前は辰巳麻乃という。二年生に上がった頃に委員会活動を通して知り合い、いつの間にか彼女と付き合うことになっていた。


 …というわけではなく、俺から告白して付き合い始めた。告白した時は本当にびっくりした。

 自分のことは客観的に見て理解していたつもりなのでどうせ振られるだろうと思っていたのにまさかの両想い。


 本当にあの時は浮かれまくったな。だって学園のマドンナだぞ?委員会が一緒だったことさえ奇跡だったのにリア充になれるなんて。


 もちろん最初は学校中の男たちに恨まれたさ。でも一か月ほど経った頃には皆認めてくれていた。

 むしろ俺と麻乃のカップルがいないと落ち着かないくらいまであったとか。


 流石に嘘だろと思ったが俺の友人曰く本当のことらしい。


「どうしたんだ、そんなあほみたいな顔して」


「そりゃお前だろ雄介」


「失礼にもほどがあるぞ。朝っぱらから」


「お前だからだよ」


「ふんっ、そういや彼女さんはどうしたんだよ。侑都の世界で一番大切な彼女さんは?いつも一緒に来てるだろ?」


 こいつは俺の親友である武田雄介。小学校からの腐れ縁である。別に何も約束していたわけじゃないのに同じ中学、同じ高校に進学しクラスまでずっと一緒。家族よりもお互いのことを分かっているかもしれない。


「なんか今日はちょっと遅れるらしい。詳しい理由は分からん」


「へー、あ、来たんじゃね」


 廊下の方がなにやらザワザワとしている。これはいつものあれだ。麻乃が来ると他のクラスの連中が騒ぎだすときのあれ。


 もう今まで何度も近くで経験してきたがこうやって遠くにいても振動を感じるとは。改めて俺の彼女の影響力えぐぃ。


「おはよう、皆」


「おはよう麻乃ちゃん」

「今日も可愛い~」

「辰巳さん今日もかわいー」


「ふふふ、ありがとう皆」


 これも見慣れた光景だ。俺が隣にいようがいまいがあの歓声の量は変わらない。


「あ、こっちに来るな。お前らの空気に耐えられんから俺はおさらば」


「おいっ」


 こうやって空気を読んでくれるのも俺が雄介と親友でいられる理由だろうな。


 「おはよう侑都」


「おはよう、麻乃」


 ちなみにこんなに可愛い彼女がいる俺ではあるが、根っからの陰キャである。仲の良い雄介には素の自分をさらけ出すことが出来るが、他のクラスメイトと話すときはタジタジになってしまう。


 普段麻乃の隣を歩くとき周りから注目されるのも本当に大変だ。麻乃と一緒にいるためにももちろん我慢しているが、彼女は本当にすごい。 

 場慣れしているんだろう。この前話した時に昔からそうだったと教えてくれた。


「今から話があるんだけどいいかな?」


「今から?もちろんいいけど」


 なんでわざわざ確認なんてしてくるんだろう。いつもなら自然な感じで会話が始まるのに。

 不思議だなと常日頃思う。


 友人たちと毎日学校で楽しく話し、楽しんでいるのは確かなのに肝心な何を話していたのかは覚えていない。でも楽しかったということだけは覚えているのだ。

 みんなも一度や二度とは言えないくらいに経験しているんじゃないか?


「じゃあ、別れよ侑都」


「…………………え?」


 今なんて言ったんだ?俺の聞き間違いか?

 クラス中がざわざわとしている。さっきの麻乃が登場した時とはまた種類の異なる騒々しさ。


「なんか飽きちゃった侑都のこと。話しててつまらないし流石にもういいかなって」


「え…冗談だよな?麻乃…」


「麻乃って呼ばないでくれる?もうこれから二度と話しかけないで。本当に最近気持ち悪かったから」


「嘘…」


「嘘じゃない。本当にうんざりしてた。毎日勝手に迎えに来るし、私のこと変な目で見てくるし、勝手に思いあがって。調子に乗るのもいい加減にした方がいいよ」


「あぁ…ごめん…」


 そうだったのか…俺、いつの間にかこんなに嫌われてたんだな…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る