僕は男女の友情を信じてる~彼氏持ち幼馴染は関係値をリセットできない
濵 嘉秋
第1話 美少女幼馴染は実在する。ただし恋人あり
「ねぇ真一ぃ、これの新刊いつ出るの?」
9月、学校も終わって帰宅した数分後…家にやってきたのは幼馴染の
「文庫版はまだだ。ハードカバーなら何年か前に発売されてるけど…欲しいなら自分で買えよ」
「うぅん…ハードカバー苦手なのよね。こっちのほうが読みやすいでしょ?」
「同感」
本棚の前に座り込んで下の段を物色し始める湯那をしり目に机に向かうと、パソコンを起動してYouTubeを開く。ホーム画面にはVTuberの切り抜きや自作アニメのコント動画がズラリと並んでいる。どちらも見始めたのはここ数か月の話だが、それでもAIはこの調子だ。
だが実際に嵌ってしまうのだから思うツボなのかもしれない。
「ワラビじゃん。なに、投げ銭とかしてるの?」
「そこまではまだ。グッズを買うくらいならするかもしれないけど、ほぼ毎日してる配信に一々金をかけるまでは乗ってないよ」
「ふぅん…まぁ正直、アンタがそんなことしてたら引いたけどね」
「視聴者を敵に回すぞ」
「別にいいしぃ?」
ベッドに転がって本を開く湯那。
「しっかし、漫画より小説とかラノベのほうが多いってのも珍しいよね。しかも壁一面の本棚がほとんど埋まってるし」
制服だからその体勢だとスカートの中が見えてしまう。僕も男だしコレに関して思うところがないと言えば嘘になるが、ドギマギしても意味がないということはよく分かっている。が、ここは危機感の薄い幼馴染に忠告しておくべきだろう。
「スカートの中、見えるぞ」
「何を今更、それにスパッツ履いてるし」
「だからいいって話じゃないだろ」
「えー?あ、もしかして意識しちゃう?」
本を置いてベッドから起き上がると僕の首に腕を巻き付けてくる湯那。何やら柔らかい感触があるが、それには構わず彼女の腕を引き剥がす。
「ま、これくらいじゃ興奮しないよね。童貞じゃあるまいし」
「うるせ」
「でもまぁ、勿体ないよねぇ…こんないい女が傍に居てこれより先を見れないなんて」
「本当に
「生憎、
「僕たちってそんな感じだっけ?」
そこまで盛っていた記憶はない。週一くらいだったはずだ。
「一回が長いのよ!毎度毎度気づいたら朝だったじゃない!」
「そうだっけ」
「そうよ。ちなみに覚くんとはキスまでだから」
「付き合ったのって半年くらい前だろ?どうなのソレ、基準が分からん」
「早くもなく遅くもなく…本当に人それぞれ。周りの子で言うと3か月、最短は即日」
彼女の言う「周りの子」…何となく顔は出てくるが誰が即日なのかは全く分からない。皆ありそうな気もするしなさそうな気もする。
「部屋で勉強してたりすると視線は感じるんだけどねぇ…向こうは初めての彼女みたいだし慎重になってるんじゃない?あ、ぐら〇ぶるじゃん。買ったの」
再び本棚物色を始めた湯那。前から気になっていた本を見つけたのか数冊引っ張り出してベッドに戻る。ベッドに上がるまではまだいいが、布団をひざ掛けにするのはどうなんだろう。拒否感とかないのだろうか?
「……なぁ」
「なにぃ?」
「湯那がここにいるってこと、垣崎は知ってるのか?」
「うんにゃ?言ってないけど?」
「大丈夫かソレ…別れを切り出されても責任取らんぞ僕は」
「結婚してるわけでもないし、学生の交際なんだよ?知られずに済むならそれでいいんです!」
「わぁ不誠実」
「いいでしょ別に。やましいことはないんだから」
「いや、彼氏持ちが他の男の家に上がり込んでるのはやましいだろ」
「言う割に私を拒絶しないよね真一って。期待してる?」
「いいや?そのラインは超えないだろ、お互いに」
彼氏持ちの女に手を出すつもりはない。そんな女を家に上げてる時点で手遅れ?うるさいよ。
「それに…」
「この関係を捨てるつもりはない、でしょ?ホント、似てるよねぇ私たちって」
「一緒にいた時間が長いからな」
「噂をすれば覚くんだ」
漫画を中断してスマホの画面を見せてくる。画面には垣崎からのラインメッセージ。内容は『今から話せるかな』という簡潔なもの。
「ちょっと電話してくる」
そう言って部屋を出ていく湯那を見送って、椅子の背もたれに体重をかける。
「本当に…お互いネジが外れてるんだろうな」
僕たちは幼稚園からの付き合いがある幼馴染であり…元恋人同士だ。別れた理由は自分でもよく分からない。どちらからでもなく、自然消滅に近い形だった。
それでも関係は続いている。以前と変わらず湯那が家に来て、二人で思い思いに過ごす。以前と変わったのは湯那に新しい彼氏が出来てその頻度が減ったことと親が帰ってくる前に解散するようになったことだろう。家族ぐるみで付き合いがあったのだ。両者の親も僕たちがくっ付いて離れたことは知っている。そんな二人が以前と変わらず部屋に入り浸っているのは親から見ても好ましくはないのだろう。
湯那もそれを自覚しているから前はそのまま夕食までありついていたのを顔すら合わせず帰るようになったのだ。
それでも湯那はここに来るし、僕もそれを咎める気はない。それくらいこの環境は、二人に染み込んでしまっている。
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