待宵月奇譚~身代わり姫君、女御失踪の謎を解く~

湊川みみ

第0夜

「賭けをしませんか?」


 星空を映したような、艶やかな黒髪を持つ女が言った。

 その目には強い決意の輝きが見えて、それまでの淑やかな姫君然とした姿との落差に驚きつつも、俺は口角を引き上げていた。――従順で退屈な女の相手をするよりもずっと面白い、と興が湧いたのだ。


「何の賭けだ。何を賭ける?」

「あなたの恋心を」

「恋心? 馬鹿なことを」


 いかにも夢見がちな女が好みそうな甘ったるい単語を聞いて、嘲笑がこぼれ出た。そんなくだらない勝負なら、賭けの結果は見え透いている。

 話の聞き手として褒められた態度ではなかった俺に、彼女は気分を害した様子もなく、ただ淡々と、ただ真摯に、言葉を重ねた。


「ねえ、本当よ。あなたはきっと、妻に恋をするわ」


 それは、どこか、古の巫女の予言を思い起こさせた。

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