3つの願い事

みたらし団子

第1話:サイダーの雨


「願い事なんでも3つ叶えてやるよ。」


「えっ。」

彼の言葉に、思わず顔を凝視する。昼休み、立ち入り禁止の屋上。私と彼は、今日もそこでこっそりお弁当を広げていた。特別仲が良いわけじゃない。ただ、教室でお弁当を食べたくない私は、トイレで食べるのも嫌で、屋上に逃げ込むようになった。すると、そこには思いがけず先客がいた。


杉本一希。サッカー部のエースで、クラスのムードメーカー。そんな彼がなぜ屋上でこっそりお弁当を食べているのか、私は聞いたことがない。聞くべきじゃない気がして、理由は今でもわからないままだ。初めて私が屋上に来た日、彼は少し太い眉を上げて驚いた顔をしたけれど、それ以上は何も言わなかった。今では昼休み、自然に二人で屋上に来て、それぞれのお弁当を静かに食べるのが日課になりつつある。


「どういうこと?」

私は怪訝そうに彼を見た。


「なんでもいいよ。」

杉本は軽い調子で言うが、私には急に願い事をしろと言われても、すぐに思いつかない。


もちろん、願いはある。胸の奥に鋭く刺さった「それ」を思い出すと、一瞬、ズキンと痛む。でも、これは冗談だ。だったら、適当なことを言っておけばいい。


ふと、手元にあったサイダーに目が留まる。透明な液体の中で、小さな泡がゆっくりと上昇している。


「じゃあ……サイダーを降らせてよ。」

軽く肩をすくめながら、試すように言ってみた。さあ、どうする?自称“魔法のランプの精”。


「いいよ。」

彼はニヤリと笑いながら立ち上がると、両手を合わせ、目を閉じて何かを念じるように動作を始めた。その様子が妙に本格的で、思わず呆れたように見つめていたその時――


「えっ?」

頬にひとしずく、水滴が落ちてきた。しかも、それはシュワシュワと弾けるような感触を伴って。慌てて空を見上げると、さっきまでの晴天は消え、いつの間にか空は厚い雲に覆われていた。そして、降り注ぐのはキラキラと輝く小さな水滴の群れ。


「嘘……でしょ。」

呆然とつぶやく。甘酸っぱい香りが風に混ざり、制服はどんどん濡れていく。それでも、私はただ立ち尽くしていた。恐る恐る舌を出して、そのしずくをすくうように飲んでみると、やっぱりそれはサイダーだった。


空から降り注ぐサイダーの雨は、太陽の光を受けて虹色に反射し、大粒で降っていた。私は言葉を失い、ただその光景を見つめ続けた。


「さあ、ご主人様。残りの願い事はあと2つですよ。」

杉本はいたずらっぽく笑いながら、私の前に立ち、ふてぶてしい口調で言い放つ。その顔を見上げ、私はただあんぐりと口を開いたままだった。

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