第18話 その男、バランスにつき -2-

新宿3丁目のオープンテラスのある居酒屋に入る。

オープンテラス、とかっこつけて書いたが、実態はペール缶の上に木の板が置いてあって、パイプ椅子が並んでいるタイプの安い居酒屋である。

僕らは濃いめのハイボールを頼んで、3人で近況を話し始めた。

梅ちゃんは今の仕事が自分のキャリアと一致しないことに悩みを抱えていた。

かんたんにいうと、絶望していたのである。


絶望にはいくつか種類がある。

40代でよく聞く絶望は、自分が望まぬ形でキャリアが確定して、その未来から抜け出す方法が徐々に減っていくという絶望である。

確定した未来によって評価も読めて、出世も見える。

人生で関わる人たちも、ほぼ決まってくる。

それを安定と取れる人にとっては幸福であろう。

しかし、ある種の人にとっては棺桶に片足を突っ込んでしまったことと一緒なのだ。


僕は、梅ちゃんに一筋のクモの糸を垂らすつもりで、来年から起業することを話し始めた。

会社を興して、運用設計を劇的に変えたいということ。

僕らは「運用設計の教科書」を出した後、毎回同じような運用設計をしてきた。

僕らがそれを死ぬまで続けたとしても、日本のごく一部のシステムの運用が良くなるだけ。

それ以外のシステムは相変わらず混乱したままである。

そうならないように、書籍を出して知識を共有した。

研修をやって経験を共有した。

ただ、一生それを続けても、日本中のシステムの運用を安定させることは、おそらく不可能だろう。

けど、僕らが何十回も同じことをやってきた運用設計方法をアプリケーションにして安価で発売すれば、もしかしたらもう少しだけ世界を良い方向に変えることが出来るかもしれない。

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