ロジックリドル・ラバーウルフ

朽木真文

プロローグ 恋する狼は論理的

 サブストーリーを示す青い吹き出しが画面右端に効果音と共に浮かぶ。

 ストーリー名は『詐欺師の会合』。五人いる一人前の詐欺師を目指す者達から話を聞き、指定されたモンスターの素材を納品するお使いクエストだ。

 だが、ただ話を聞くだけではない。

 納品できる素材を落とすモンスターは五種類。そして、このクエスト中にしかポップしない限定モンスター。さらには、五体の内のどれかを倒すと、他の四体は消滅してしまう。

 ではどのようにして指定の品を集めるか。話は簡単。


「この五人の中で、本当の事を言っているのは一人だけ」


 テキストを反芻するように、青年は読み上げる。

 思わず頭を抱えたのは、そのクエストの内容が難しすぎるからではない。現実逃避に起動したゲームの中で、奇しくも同じような状況に遭遇するとは、思ってもみなかったからである。


 今日の、登校から下校までのことを思い出す。

 強く印象に残っている四人が、頭の中で容易く微笑んだ。

 影を束ねたような黒いロングヘアに、すらりとした四肢に高い上背。その評判は学校を飛び出し、国内外から人気を集める麗しき高嶺の花にして先輩。空琉那子。

 ダークチョコレートのようなハーフツインアップ。ハッキリとした顔立ちと、笑顔。明朗な性格が描き出す雰囲気が、とても心地良い幼馴染の河愛依世。

 軽くカールの掛かったヘーゼルの髪に、暴力的とも言える絶大なプロポーション。纏う雰囲気はまるで春の陽気のようであり、存在するだけで空気を和やかに変える御酉夢久。

 明るい緑のメッシュが入った黒のウルフを流し、低い身長は男性特有の庇護欲を強く掻き立てる。オタク友達かつ後輩の物乃憂。

 クール、元気、おっとり、物憂げ。

 端麗、美形、上品、可憐。

 先輩、幼馴染、お嬢様、後輩。

 さもラブコメのヒロインのように、属性まで綺麗に分かれている。


「参ったなぁ……どうすりゃ……」


 人間たるもの、そして男たるもの。惚れた相手と交際したいという気持ちはよく分かる。

 そして相手に対する想いが強ければ強い程、その立場を得る為ならば手段は問わないだろう。事実、そう思案に耽る保科自身もその気持ちもは大変よく分かる。

 とは言え、この状況は少し冗談じみていて笑えて来る程だ。


「だとしてもなぁ」


 物語だとしても、現実味が無さ過ぎて誰も読まないだろう。

 旧年明けまして即座に前方不注意のトラックに激突。

 六トンと六十キロ前後。五千キロを優に上回る重量差だが、奇跡的に命に別状は無く四か月の入院を経て無事回復したはいいものの、事故から三か月の記憶が欠落していた。

 その事実を知り、瞳を輝かせる狼が四匹。否、四人。


『だって私達――』

『忘れてんの……。私達は――』

『じゃあ、一緒にがんばろ? だってわたしは――』

『釣れないなぁ。うちら――』


 この中の誰が本当の事を言っているのか。全員か、一人か。もしくはゼロか。

 失われた三か月を取り戻せる兆しは無い。だからこそ、彼は推理で正解を手繰り寄せねばならない。まるで眼前のサブストーリー、論理クイズのように。

 全く以て悩ましい。


『付き合ってるんでしょ?』

『もう恋人じゃん』

『彼女だもん』

『恋人なのに』


 恋する人狼四匹と、哀れな村人がぽつんと一人。

 それぞれ密かに研いだ牙と爪を振るう時が来たと、人狼たちは沸き立っている。村人の身を喰らい、己が物とする為に。

 対して村人は持つは頭脳のみ。運命というゲームマスターにより、役は割り振られた。さて、最初の高校生活が訪れる。

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