【時は2009年】筆者の新卒時代の思い出【リーマンショック後】

@kintyou

2009年7月。中途採用面接

「名前は委員長さんですね。それでは、志望動機をお願いします」


「は、はい!! ハローワークの求人を見させていただいたところ、

 御社のお仕事 内容の以下のところに私は感銘を受け…」


以上は面接時の風景。

09年7月の第1週だったと記憶している。

俺は大学を出て一年目の「新卒扱い」でその企業に入社することが決まった。

実は初めての会社じゃないのだ。4月から採用された会社は地元の工場だったのだが、現場の作業があまりにも自分に合わな過ぎてたったの1か月で辞めてしまった。


根性なしと言われても仕方のない無能さである。

その後、光の速さで転職活動を続けてこの企業にたどり着いたのだ。


(現場仕事は思ってたよりも辛かった。あれじゃ長くはもつまい。

 やはりデスクワークの方がいいだろう)


俺より少し前の世代の人たちは神の広告を見て応募したのだろうが、

俺の世代はネットで求人を探すのが普通になっていた。

新聞には紙の広告もあるのでそちらも参考にさせてもらったが、

俺にとって身近だったのは地元のハローワークだった。


仮に都内の会社に働くにしても、俺は埼玉県の田舎(農村部)に住んでいたから都心までかなりの距離がある。埼玉の大宮市周辺(現さいたま市)に行くのにしても遠すぎる。電車通いをするにしても最寄り駅まで車で20分もかかるのだ。大宮駅まではさらに電車で30分以上もかかる。会社にはそこからさらに歩いていくのだ。


一般的に大卒が使用する就活サイトには登録はしていたが、サイトに登録されているのは9割が都心部の企業のみ。この時期では離職者の多い仕事内容や人間関係に問題有りの求人ばかり。俺はついにリクナビやマイナビを利用することはなかった。


たとえ給料が安くても、実家から通える距離の会社に通勤して一人暮らしにかかる

費用を削減する方が、長い目で見て貯金がたまると考えていたからだ。

この貯金に対する考えには俺の両親も賛成はしていた。


5月のGWからハロワに通いつめ、ついによさそうな会社を見つけた。

ハロワに掲載されている企業は怪しい求人ばかりなのは承知している。

俺の席の隣で求人用のPC端末をカタカタといじっている人たちは、当たり前だが俺より年上のオジサンやおばさんばかり。死んだ魚の目をした人たちが多かったのを記憶している。仕事を選んでばかりだと無職期間が延びるだけだ。

だからこそ、みんなどこかで妥協して仕事を見つけないといけない。


カーテンの隙間から梅雨明け前の日差しが差し込む。再び面接の場面。


「あなたは4年生の大学の経済学部を卒業されてるということで頭脳面では期待したいところです。前職は直ちに見切りをつけて辞めてらっしゃいます。

辞めるきっかけとなったことは何なのでしょうか?」


「仕事内容や環境などが、実際にやってみてどうしても自分に合わないと判断したため、直ちに辞めるべきだと判断しました。そして1日でも早く自分に合いそうな仕事に就くべく活動を開始しました。現場での仕事よりもデスクワークの仕事を望んで御社の求人を拝見いたしました。」


「そうですか。今は転職するのが当たり前の時代ですから、どうして合わないと思った会社にずるずるい続けるよりも早いご決断をされることも選択の一つでしょう。

現在22歳の男性……まだ十分にお若いので当社では新卒扱いとさせていただきます」


「は、はい!! ありがとうございます。大変におそれいります」


相手はコールセンターの責任者を名乗る眼鏡をかけたおじさんだ。

俺は緊張になってガチガチだった。歯の噛み合わせも合わないくらいだ。

瞬きの回数が異常に多いことを自覚している。


リーマンショックの後、まともな求人など見つかるわけがない。

ここが不採用だとしたら、あと何社受ければよいのか。ただ受かりたい

一心で面接を受けていた。その日は仏壇で手を合わせてから家を出た。


「ふふ……。緊張されてますね。緊張されてることは決して面接では

マイナスになりませんから大丈夫ですよ」


そう言ってって優しく笑うのは、40代の背が高くすらっとした体系の女性のマネージャーだった。どうやらこの人はかなり偉い人らしい。終始笑顔だが、笑顔の裏に隠された顔がありそうな人だった。大人の人は内面を隠すのが上手いのだ。


「それでは質問ですが」


さきほどの怖い顔をしたおじさんだ。


「わが社ではコールセンターとしてお客様のトラブルに対応するわけですが、

 あなたはわが社で働く上で何が大切だと思いますか?」


「はい!! 班ごとにメンバーを構成して対応に当たると聞いております!!

 ならば、協調性、すなわちメンバー間のチームワークが最も大切なのだと

 考えております!!」


ほう……。3人いる面接官たちが顔を見合わせる。


(まずい……失言だったのか?) 夏なのに背中が急に冷たくなるが、杞憂だった。


「そう。まさしくあなたのおっしゃる通り」

その怖いおじさんが口を開く。

「わが社ではチームワークがとても大切なのです。

 まだお若い方にしてはなかなか鋭い視点をお持ちですね」


女性のマネージャーが続ける。

「わが社の規則について説明します。まず、わが社の勤務は参考体制となっております。今回の応募された皆様にお任せしたいのは、早番と遅番にあたる…」


(え……? え……?)


早口で会社の規則を説明されたので聞き取るのが大変だった。

相手は決して早口ではなかったのだろうが、緊張の極みにいた俺にはそう感じた。

意味も分からぬまま何度も頷いて理解してる風を装う。


仕事内容の詳細に関することまで説明された。面接終了後、2日後に合格の連絡が来た際に、あの説明を始めた時、すでに自分は合格していたのだと知った。おそらく面接官が「チームワーク」の件で顔を見合わせた瞬間、採用が決定していたのだ。あの言葉は適当に思いついたことなのだが、結果的に的を射ていたらしい。


(俺は採用されたのだ。しかも1社目に失敗したのにほぼ新卒扱いで……)


合格が決まった日はうれしくて夕ご飯をお腹いっぱい食べたことを覚えている。

新しい会社で社会人生活が始まるのだ。



【投資に関するメモ】

~22歳の若い子供から、37歳の大人になった自分へ~

 投資家になるきっかけを過去の自分から学ぶ


・入社後1か月で初めて入った企業を辞める

→決算後、不良銘柄は直ちに損切りする。

辞めると無給になる。売ると損失が確定する。いずれも

一般的には非常識に思える判断だが、常識から外れないと投資はできない。


・「少人数制で班を組むコールセンターの仕事では、チームワークが大切」

→求人の募集要項を読んでからすぐに思いついたこと。

 新卒なのにその仕事の要点をつかんでいた。

 この一言がなければ採用されなかった可能性が高い。


・企業面接では面接担当者は、その人の話の内容ではなく、話の仕方から内面を見ている。新卒者に志望動機を聞く際も、実は話の内容自体は聞いてない場合が多い。

→企業業績よりも経営陣の顔ぶれ、話しぶりから人となりを読み取ることが大切。

毎年3月、6月の議決権行使書において役員を選ぶ際にその人の人柄を考える。

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