第4話 「夏と、世界への希望のにおい」お題・蚊取り線香

 夏特有の、においがする。


 それは火をつけた、蚊取り線香のにおいだ。

 このにおいは子供のころ、夏休みの大部分を過ごした、田舎のおじいちゃんの家を思い起こさせる。


 日中は、虫取りでかいた汗。

 おやつのスイカ。

 そして夜には、手持ち花火と、蚊取り線香のにおい。


 おじいちゃんもおばあちゃんも、もういなくなってしまったけど……このにおいをいでいると、なつかしさと、あのころ抱いていた、世界に対してのいとおしさがよみがえってくる。

 だから何か落ち込むことがあったときは、蚊取り線香をき、あのころの気持ちを取り戻すことにしている。


 ……そうしているうちに、蚊取り線香が燃え尽きた。


 ありがとう、と私は心の中でお礼を言う。

 ありがとう。

 夏と、世界への希望のにおい。


 このにおいがあれば、私は明日からも、生きていけるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る