第21話 『覚悟して下さいね』
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と或る11歳の女の子の独白(前)
今日は、この世界に来てから1番嬉しい日になった。
私と同じ様な境遇の人が居て、ステイツで観た『ANIME』映画の話で盛り上がれるなんて、思いもしなかった。
比較的裕福なドイツ系移民の両親から生まれた私がステイツで死んだ理由は病気だった。
エレメンタリー・スクール第5学年の時に心臓の病気が発症して、最後の1年間は自宅と病院の中だけで過ごした。
夜中に襲った発作の苦しみが最後の記憶・・・
意識が戻った時には2度目の人生が始まっていた。
何が起こったのか分からなかったけど、しばらくして本当のお父さんとお母さんと弟のダニーに2度と会えない、と理解した時が1番辛かった。
アイスクリームもカートゥーンもANIMEもMANGAもポップコーンもヒップホップもシュパーゲルもマウルタッシェもフラムクーヘンもフライドポテトもMTBもSwitchも無い…
友達も居ない…
この世界の両親が愛情を注いでくれなかったら、もっと灰色の人生を送ったと思う。
そういう意味では今の両親には感謝をしているし、愛情も感じる。
それに、去年の『恩恵の儀』で『恩恵の神・サーラ』に励まされて、しかも素敵な恩恵を貰ってからは、この世界での暮らしも楽しくなって来た。
そして今日、元日本人の3人に出会った。
お父様がオルゴールを取り出した時、また心臓の発作を起こすかもというくらいに驚いたけど、流れて来たメロディを聴いた瞬間、どうしようもなく涙が溢れ出てしまった。
ステイツの自宅に有った円盤型のオルゴールでよく聞いた懐かしい曲だった。
婚約者になった男の子は優しくて頼り甲斐のある人だった。
きっと、これからもっと楽しくなるに違いない。
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「悪いが、今日の午後は時間を空けといてくれんか?」
ちょい悪オヤジが、滞在2日目の朝食の席でいきなり言い出した。
同席しているのはカシバリ家の家族3人と俺たち兄弟の3人だ。
「特に予定は入れてないですから、別に構いませんが」
午前中の予定は決まっている。
朝食が終われば、お茶を一服して、それからカシバリ郡の有力者たちとの会談だ。
まさかの完敗とそれに続いての全面降伏は有力者には想定外だろう。
いや、想定する方が無理か…
しかも、領主が溺愛してやまない一人娘の婚約まで決まった。
まさに青天の霹靂以外の何物でも無い。動揺が走って当然だ。有力家の中には、アダリズ嬢との縁組を狙っていた家も有るだろうしな。
面従腹背はある程度は仕方ないが、コントロール出来る範囲内に留める為には直接会って、釘を刺す必要が有る。
まあ、俺たちはまだ13歳にも満たない子供だから、舐めて掛かって来る人物は必ず居るだろう。
そんな人間に、俺たちを舐めて掛かると手痛い目に遭うと初っ端に印象付けておかないと、後々面倒になるからな。
「いや、なに、いっその事、アディの婚約の公表と許嫁の披露を行って、お前さんたちのゴムルを見せびらかした方が手っ取り早いと思ってな」
「見せびらかすですか… まあ、確かに自分たちのゴムルを見る前と見た後では、全然印象が違うでしょうね」
砲艦外交ここに
日本は幕末にペリーの黒船に屈したが、俺たちはゴムルでそれに近い事をする訳だ。
交戦中に見た限り、カシバリ郡のゴムルの身長は3㍍強がほとんどだった。
対する俺たちのゴムルは4㍍を超える。大人と子供並みに体格が違う。
装備も、鋼鉄製の全長4㍍と云う化け物じみた長剣と見た事も無い鎧兜だ。
もし、俺が普通のゴムル遣いで、そんな化け物の相手をしなくてはいけないのならば、時間稼ぎしか思い付かん。
しかも、近距離戦闘を嫌って、遠距離戦を挑めば自身の短弓よりも強力なコンパウンドボウモドキで狙い撃ちだ。
相手をするのが嫌になるな。
それに何と言っても、俺のゴムルは眩しいくらいに金ピカだし…
「何かの本で読んだ記憶が有るのですが、『百聞は一見にしかず』という言葉が有るそうです。いくら噂をたくさん聞いても、実際に見ないと本当の事は分からない、という意味らしいです」
「ほう、それは面白い言い回しだな。今度使わせてもらうとするか」
俺とちょい悪オヤジが大人の汚い話をしている横で、アダリズ嬢と長谷川二曹が目線だけでちょいちょいと会話をしていた。
通信プロトコ
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と或る11歳の女の子の独白(後)
日本人て、やっぱり頭が良いのかしら?
兄弟の内の1人がお父様を相手に真っ向から『大人の会話』をしている。
ステイツでもこちらでもまだティーンエージャーの私では付いて行けないから、口を挟めない。
お母様も口を挟まないという事は、満足出来る内容なのだろう。
まあ、今のお母様の関心は私とヴァル様の仲がどれくらい進んでいるか?みたいだけど。
ちなみに、ヴァル様という呼び方は昨日の段階で許して貰えた。
でも、ヴァル様は私の事をアダリズ嬢としか呼んでくれない。
なんでも、日本人はシャイな民族らしくて、愛称で呼ぶのは恥ずかしいらしい。
もしかすると、私からアタックしないといけないのかしら?
意外とそれも楽しそう…
ヴァル様と目が合ったので、『覚悟して下さいね』と視線で伝える。
返事は『お手柔らかに』だった。
まあ、本当にそう言って来たかは分からないので、後で訊いておこう。
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