女神の軌跡

青雨

第一章 罪の波紋

 早くに目が覚めて、アールベルクは海岸に出た。早起きは三文の徳というし、海には宝石が落ちていることが間々ある。もしかしたら、魔石が拾えるかもしれないという下心もあった。

 波打ち際を歩いていると、きらきらと光るものが落ちていて、それを拾っていると時間を忘れた。案の定、宝石がいくつか落ちている。これは、後で宝石屋に行こうと思っていると、むこうの方になにか大きなものが落ちているのが見えて、アールベルクはなにかな、と思い立ち止まった。

 初め、魚かなにかの死体だと思った。

 近寄ると、違うということがわかった。

 それは、人間だった。女。裸の女。

「……」

 死んでいるのか。

 恐る恐る歩み寄ると、屈んでみた。そして、脈に触れた。

「――」

 生きている。肌は冷たいが、生きている。慌てて上着を脱いで、裸の肌に被せた。そして声をかけた。

 揺さぶると、しばらくして娘は目を開けた。

「……」

「ああよかった。目が覚めたね。起きられる? 名前は? どこから来たの? なんでこんなところで倒れてるんだい?」

 娘は顔を顰めて、頭でも痛いのか額を押さえながら起き上がると、

「……あなたは誰?」

 とアールベルクに尋ねた。

「俺? 俺、アールベルクっていうんだ。みんなはアールって呼んでる。君は?」

「……私?」

「うん。君の名前は?」

「……私は……ルグネツァ」

「どこから来たんだい」

「……」

 ルグネツァは目を細めた。

「わからない……」

「えっ」

 そして額に手をやった。

「わからないわ」

「わからないって……」

「思い出せないの」

 ぽろり、と涙が一筋、その瞳からこぼれ出た。

「思い出せないの」

 アールはすっかり慌てて、宝石屋に行くことなどすっかり忘れて、自分の着ているものをルグネツァに着せてしまうと、彼女を立たせてこう言った。

「ま、まあまあ落ち着いて。俺のいる宿に行って、温かいものでも飲んで、食べたらなにか思い出すよ。俺の相棒もいるし、まずはそこに行こう。ほら」

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