習作

オオサキ

習作

わしは暇を持て余しておったんじゃ。


そんな時じゃった。わしが萌え日常系あにめに出会ったのは。


わしは悠久の時を生きる妖狐じゃ。昔は普通の狐じゃったが、色々あってなんやかんやで妖狐となってからもう千年以上も生きておる。


三百歳ぐらいの時に神として祀られ始め、神社なんかも建てられておるわけじゃが・・・・・・暇なんじゃ。


こんな田舎の神社に参拝してくる人間なぞそうそうおらんし、おっても千年生きたわしのちーと級の力なら人の願いを叶えることなどちょちょいのちょいじゃ。


ということで時間があまりまくって暇なんでわしはあにめなるものに手を出してみたんじゃ。


そこで特にわしが惹かれたのは萌え日常系あにめじゃった。


わしもこんなことがしてみたい!のじゃ!


そう!わしも情報処理部に入ったりとかしてみたいし、金髪の女の子を愛でたりしたみたいし、おーぷにんぐでじゃんぷするような神あにめ的日常を送ってみたい!のじゃ!


だからこうして人間に化けて高校に入学することにしたというわけじゃな!


書類とか試験とか諸々のことはわしの力をもってすればなんとかなるんじゃよ。他の神にも最近の人間の生活とか考えとかを知るための調査と説明したので、過干渉と怒られることもないんじゃ。どうじゃ、完璧じゃろ?


さて、今日は待ちに待った入学式じゃ。


合格通知と一緒に届けられたぷろぐらむによると、最初は指定されたクラスの教室に集まって、それから体育館へ向かうと書いてあったゆえ今は廊下を歩いておる。


と、その前に耳だのしっぽだのが出とらんか、一応確認しておかねば。


ちょうど窓があるからこれを鏡がわりにして確認してみようかの。


窓を覗くとわしの姿が映る。今のわしは腰の辺りまで伸びた長い黒髪に黒い目の普通の女子高生といった感じになっておる。まあぶっちゃけ普段のわしから耳としっぽを無くして、目と髪の色を金色から黒に変えただけなんじゃが、それだけでもけっこう印象が変わって見えるものじゃな。


この見た目じゃとわしはどの立ち位置のきゃらになるかのう・・・・・・?


ふーむ、しっかりしてそうに見えて意外と天然系とか、見た目通りに世話焼きお姉さん系つっこみとか・・・・・・ま、やってみればわかるじゃろ!


これから待ってるであろうふわふわでぽわぽわな日常に想いを馳せつつ、わしは教室へと入ったんじゃ。


そしてわしの目に映ったのは床の上に四つん這いになっておる陸上部所属っぽい元気っ子と、その上へ当然のように座る小学生のような見た目の少女じゃった。


・・・・・・わしの日常系は、変態から始まった。


・・・・・・


い、いや待て待て待て!何か事情があるかの知れん!迂闊に教室で変態ぷれいする狂った二人組と断定するのは早計じゃ!何かこう・・・・・・わしには想像もできないような深い事情があってこうなっているのに違いないんじゃ!


ということで話しかけてみた。


「あー・・・・・お主ら、何をやっとるんじゃ?」


ちなみにわしが話しかけたのは椅子になっとる方の少女じゃ。


「んん?君なんか変わった口調してるねー!何やってるかって?見ての通りだよ!」


「見ての通りって・・・・・・」


「そういうプレイだよ!」


深い事情なぞ無かった。そういうぷれいじゃった。


「・・・・・・」


「あっ、何その目!ちょっと興奮する!君素質あるよ!」


「そうか、いらん素質じゃな・・・・・・」


すると座っておる小学生のような少女が、椅子役の少女の背中をぽんぽんと叩きながらこう言いおった。


「・・・・・・何他の人に色目使ってるの。あとでお仕置きだからね」


その言葉に椅子の少女は目を輝かせてこう返した。


「わん!!!」


もう終わりじゃよこの組。



うう、もう終わりじゃあ・・・・・・この物語は萌え日常系ではなく変態に振り回されるちょっとえっちでまにあっくなどたばたこめでぃになるしか無いと言うのか・・・・・・。


・・・・・・いいやまだじゃ!まだわしは諦めんぞ!変態こめでぃはあの二人がやっておればいいんじゃ!わしはわしで萌え日常系をやっておればいいんじゃ!


よーし、そうと決まれば早速萌え日常系っぽい友達を探さねばなるまい!


今はもう入学式も終わってほーむるーむとやらも終わったので、一応は放課後になっておるが当然ほとんどの生徒はまだ帰らず学校におる。


と、わしが萌え日常系っぽい人を探して廊下を歩いておると、くいくい、と袖を引かれた。


「なんじゃ?」


振り向くと何やら半透明の少女がおった。長い髪の毛で目が隠れておってよく見えない。いわゆるめかくれというやつじゃな。


・・・・・・というかこやつ生きておらんな。


わしは神と崇められるほどの高位の妖ゆえ、当然のことながら生きていない者、幽霊も当然のことながら見える。見えるし触れる。


というか教室の時点からそこら辺にうろうろしている教員の霊とか、低位の同族とか、妖精なんかも見えておったのじゃが、詳しく話し出すときりが無いから描写を省いておっただけじゃ。


ということでこの女生徒もどうやら生きた者では無いらしい。幽霊じゃな。


ふむふむ、この様子を見るにこれは神と崇められるほど高位なるこのわしを頼ってきたという感じじゃな!


「・・・・・・」


くいくい、と少女は無言でわしの袖を引く。どうやらついてきてほしいみたいじゃ。わしは促されるまま少女についていった。


しばらくして、少女はある教室を指差した。


ふむ、見たところどうやら使われておらん空き教室のようじゃな。


この少女はどうやらこの教室に囚われておる地縛霊のようじゃ。長く幽霊していて少し未練が薄れてきておるようじゃから、地縛霊でも多少はここから離れることもできるみたいじゃが。


「・・・・・・」


無言のままここ、ここ!というふうに教室を指差す少女。どうやら入ってほしいようじゃ。


言う通りに教室の扉を開けて入ってゆくとそこにいたのは────。


「ああいけませんわ、わたくし!こんなところでこんなことを・・・・・・!」


のーぱんですかーとを捲り上げる少女がおった・・・・・・。


何じゃこいつは・・・・・・そりゃあ幽霊もわしに助けを求めるわ。自分が取り憑いとる教室でこんなことされたらのう・・・・・・。


少女は目を瞑ってはあはあしておるんで、わしの存在に気付いておらんようじゃから、とりあえず観察をしてみた。


肩の少し下辺りまで伸びた絹糸のような白い髪に、明るい緑色の目、雪のように白く、滑らかな肌、見た目だけなら儚げな美少女といった趣がある。


ちなみに教室の入り口の方に向かってすかーとを捲り上げておるから大事なところまで丸見えじゃった。


と、その時ようやくわしの存在に気付いたようで、わしと目が合った。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「見て、おりましたの?」


「ついさっき来たところじゃが、まあ見たな」


「・・・・・・ぽ」


恥ずかしがるかと思えば、逆に喜ばれてしもうた。


「あなたなかなかいい目をしておりますわね」


何じゃ?その少年漫画の主人公が言われそうな台詞は。そんな台詞を実際に言われる日が来るとはな・・・・・・・。


「あなたの目、なかなかいいですわ・・・・・・なんかこう、見られてるって感じが強くていいですわね!」


「そうなのか・・・・・・いや、そんなこと言われてものう・・・・・・」


本当にそんなこと言われてものう・・・・・・。


わしが戸惑っておると、つかつかとこちらへよってきた少女がぎゅっと手を握ってこう言ってきおった。


「ということでわたくしの露出パートナーになってくれませんか!?その目でいつも見つめられたいですわ!!」


・・・・・・なんか展開早くないか?


・・・・・・最近の子らはみんなこうなのか?わしはあにめを浴びるほど見て、今時のことについてかなり精通したつもりでおったのじゃが・・・・・・わしは何か誤解しておったのかのう。ひょっとして今時はこれが主流だったりするのか?


・・・・・・


・・・・・いやそんなわけないじゃろうが!!


何じゃこれは!?一体何がどうなっとんのじゃ!?急展開すぎやしないか!?


い、いや一旦冷静になろう。ここは激したりせず冷静に断ろう。


「悪いが、わしは変態が集まってくる系こめでぃの主人公になる気はないんでのう。わしは萌え日常系の登場人物になりたいのでな」


「萌え日常系・・・・・・ですか」


「そう、わしはちょこころねの話とかしてたいんじゃよ、一生」


「一生はもはや拷問ですわよ・・・・・・」


「じゃから悪いが、その露出ぱーとなー?とやらは─────」


断る、と言おうとしてふとわしは気がついた。


わしはわしの陰に隠れるようにしている例の幽霊少女を見た。


「・・・・・・なあもしわしがここで断ったらお主はどうするんじゃ?」


「そうですわね、その場合はここで露出を続けることにしますわ。なんかここ誰かに見られてる感じがして気持ちいいんですわよね」


・・・・・・わしがここで断ったら、多少動けるとはいえ長くはここから離れられそうもないこの地縛霊少女が代わりに見せられ続けることになるのう・・・・・。


「仕方ない、ぱーとなーとやらになってやろう」


「いいんですの!?やったー!」


・・・・・・何とかしてこやつの露出衝動を抑えつつ、萌え日常系的ふわふわぽわぽわな日々を送ることにしよう。


わしは半ば絶望的な決意を固めるのだった。

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