いつも通り、じゃない『カコ』
那埜
一
「今日でここも閉まっちゃうなんて……名残惜しいね、カコ」
海辺の近くの街、長谷川市にある喫茶店。
私こと藤波カコ(漢字は華子と書いて、かこ)が高校に入学するぐらいにできた喫茶店だったけど、どうやら閉店するらしい。
今の私が高校三年生だから、私と一緒に始まって私と一緒に終わるのかと思うと確かに名残惜しい気持ちもある。
「名残惜しいってそんな……アキちゃんも大袈裟だね。別にそんな気しないかな、私は」
言わないけど。
「でも部活動の帰りとか、水泳部が休みの月曜日とか、よく一緒に行ってたよね。この喫茶店で色々話したよねー。学校のこととか、部活のこととか、家のこととか……もうここじゃ話せないんだね」
「大袈裟だね。ここがなくなっても他のところで話せればいいじゃん」
「うーん……そういうじゃなくてさ。なんて言うんだろ、いつも通りある場所がなくなるから悲しいとか、そんな感じかなぁ」
「いつも通りの場所、ね」
「そう。いつも通り言ったら喫茶店があって、いつも通りケーキを食べて、いつも通りカコと会話する。そんないつも通りがあると思ってたら、突然なくなっちゃうの。なんだか悲しくない?」
「そうかな……」
私は義理の姉妹である藤波アキの言葉に否定的な言葉を投げかけながらも、内心では納得していた。
……ほんの少し。
だけど、正直なところ。
私はいつも通りの場所なんて存在しないと思ってる。
それは私の人生が教えてくれている。
いつも通りの場所なんて、ない。
いつも“それ”は突然始まって、“それ”は突然終わる。
それは、いつも通りがいつも通りではないこと。
「ま、私は何も気になんないかも。人生と一緒で、変わっていくだけだよ」
「カコってドライだよねー」
「そうでもないよ。特に何も思わないだけ」
そう。
何も思わない。
正確には思わないようにしている。
だって、いつも通りの日常なんていつでも簡単に終わるのだから。
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