侯爵令嬢、遊侠に憑かれた親友の伯爵令嬢のためがんばる。

ルーシャオ

第1章 遊侠in伯爵令嬢

1, その名は忠次

第1話 あれはベルではないの

 、ブランモンターニュ伯爵家令嬢ベルティーユは、きっと変わってしまったのよ。


 そんな声が聞こえてくる。友人として私、ヴェルグラ侯爵家令嬢レティシアは頑として否定したいけれど、事情を知ってしまっているだけにできない。


 『あの日』のことは、今やプランタン王国の社交界で知らぬ者はいないほど噂になってしまっている。そう——舞踏会において、ベルティーユが婚約者のイヴェール侯爵家嫡男エルワンに婚約破棄されてしまったあの日。


 エルワンはウジェニーというジーヴル子爵家の令嬢を連れてきていた。この令嬢、とても美人で、ジーヴル子爵家当主を籠絡して養女となったらしい。元は街のキャバレーで歌っていたどこの馬の骨とも知れない平民だと聞くけれど、それを抜きにしても金髪碧眼の見目麗しい魅力的な女性だ。


 だから、ただでさえ婚約破棄という侮辱を受け、内気で黒髪黒目の容姿に自信のないベルティーユはショックだったのだろう。皆はそう見ていた。


 ——いや違うから。私は知っている。ベルティーユ、ベルは……。


「するってぇとだ。お前さんは女を乗り換えると、ご立派な方々が集うこの場でメンツもクソもなく宣言しやがったわけだ。はァっはっはァッ! 恥知らずもほどほどにしろや、こんちくしょうめィ! 豚面のてめぇなんざこっちから願い下げだ! 約束事の一つも守れやしねぇ男が、お家どころか女一人守れるとでも思ってやがんのか!」


 普段のベルティーユからは想像もできない荒々しい言葉、大声、その独特な啖呵の切り方。


 この場にいる貴族の紳士淑女は聞いたこともないような、捲し立てるような勢いに誰もが言葉を失い、ただその場に突っ立っていることしかできない。


 私はそれを止められなかった。ベルの事情を知っていたのに、あまりにも私たち貴族にとって非日常の言葉と態度だったから、びっくりして動けなかったのだ。


 ベルティーユは、はん、とエルワンを小馬鹿にしたような顔でドレスの裾をたくし上げて、椅子に右足をどんと置き、右腕をその膝の上に構えて睨め付ける仕草をした。


 その大見得の迫力に、舞踏会のホールにいる誰もが圧されていた。


「お控えなすってェ! こちとら、『ぶらんもんたーにゅ伯爵家べるてぃーゆ』の名を背負ってるんでェ! 洋の東西問わず、喧嘩を売りてぇってんなら買ってやるのが筋ってぇもんだ! ええ? 違うかい、お坊ちゃんよォ!」


 ベルのきわめて特異な事情を知っている私ですら、驚きのあまり終始動き出せなかったのだから、他の人々は言わずもがなだ。


 ——とにかく、ベル……いや、忠次チュウジを止めなければ!

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