帰還
「もしもし……はい。夜分遅く申し訳ありません。私は、風羽凜霞と申します」
涼香はその手に板状の機械――スマートフォンを握りしめ、耳元に当てている。
「三原啓伍先生でしょうか。はい。はい、そうです。
少し俯き、目を伏せていて感情は読めない。
しかし、普段聞かないようなわずかにうわずった口調からは緊張の相を感じさせる。
「それで、突然で大変申し訳ないのですが……はい。そうです。もしご都合がよろしければ、お伺いしたいのですが。……ありがとうございます。それで、よろしくお願いします」
ペンションの部屋の中で4人は立ち尽くしている。
凜霞は名刺を頼りに三原へと連絡を入れ、3人は少し離れてその様子を見守っている。
「それでは、今日の所は、これで。失礼します。……お休みなさい」
凜霞は耳からスマートフォンを離し、正面に構えながら人差し指でタッチする。
ピ、という小さな機械音が、音のない部屋の中を満たす。
凜霞は肺の中の空気を全て追い出すかのように、息を長く、長くはきながら、少し離れた3人に合流してスマートフォンをみづきに手渡した。
「お前も緊張することはあるんだな。意外だわ」
「貴方は私を一体何だと思っているのでしょうか」
「亜紀さん。まぁた、そうやって! 凜霞ちゃん、すごいよ。頑張ったね」
「鍵の件はこれで間違いなさそうです。先生は母の名を存じておりました」
「それで、どうなったの? 僕には何か、約束を取り付けたように聞こえたけれど」
「はい。三原先生のご自宅にお伺いする約束を取り付けました。明日行こうと思っています」
「オッケー、上出来だ。明日の午前なら時間があるから、そこまで連れてってやるぜ」
「私もついて行って、いい?」
「お願いします。私1人では心細いですから」
「嘘つけ。みづきと一緒にいたいだけだろ?」
「亜紀さん! みづきだって本気で怒っちゃいますよ?」
「おぅ、怖っ……。いいなー、誰かあたいも守ってくれん? 騎士様? ……おい、蛍、お前だよ」
「え、ぇえ⁉ ご、ごめん。僕はちょっと、無理ぃ」
「まぁ、そうだわな、知ってた。……ああ、そうだ。今日はお前も泊まっていけば?」
「え、ぼ、僕? いや、あの」
「泊まっていけ。命令だ」
「ぁはい! と、泊まらせて……いただきます」
「で、どこに泊まる?」
「どこ、とは?」
「あたいの部屋と、この部屋」
「亜紀の部屋ぁ⁉ そ、それは」
「ずっと会いたがっていたようですし、今日は亜紀さんと語り合ってはいかがでしょうか」
「いや無理だよできないって! お願い、ここに泊めてぇぇぇ‼」
「いいよ?」
「おいおい、凜霞がすげー嫌そうな顔をしてるぜ。蛍、空気読めよ」
「表情は変えていませんが……」
「部屋の端っこでもいいから泊めてよぉ。お願いだから」
「まあ、それでいいわ。ということで、風呂だ! 風呂行くぞ。もう疲れた」
「やったぁ!」
「え? お風呂、入るの……僕も?」
「当然だ。さっさと来い」
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