凜霞の朝

 次の日の朝。

 空はまだ薄暗く、太陽は山の合間から顔をのぞかせて、街を青く照らし出している。


 2人が泊まっている部屋の窓には遮光カーテンが下がっていて、そのカーテンの隙間からは陽光が差し込み、カーペットに1本の輝く線を造り出している。


 その光が照らし出す先には、少女達が身を寄せ合うようにしてベッドに横たわっている。

 純白の毛布にくるまれて、静かな寝息をたてながら。


 ピピピピ、ピピピ


 デスクに据え付けられているデジタル時計が、かん高い声を上げる。

 それに反応して毛布がぽふり、と小さく跳ね上がり、中から細い手指がちらりと姿を現した。

 その指が何かを求めてベッドの上をさまよい――やがて力尽きたかのようにぱたり、と伏せて動かなくなる。


 ついに、その手の主である凜霞が、夢の世界から戻りきっていない表情で上半身を起こす。


 凜霞が薄く目を開けると、乱れた前髪の隙間から透き通った蒼い瞳が現れる。

 その蒼い瞳はゆらめくように周囲を見渡し、自己主張の激しい騒音の主を捜し求めている。

 そして目線が横に、1点へと集まる。

 白い腕を伸ばし、騒音のぬしに指先でそっと触れ、その弱点――わざと押しにくく設計された四角いスイッチ、をカチリとスライドさせる。

 するとその主は声を封印されて押し黙るしか術がなく、この1部屋だけの小さな世界は再び静寂の世界へと還っていった。


 凜霞はゆっくり深呼吸をして、眠たげな目をこすろうと頭を下げる。

 すると、着衣の乱れ――自らの胸元と下腹部が露わになっていることに気づき、緊張した面持ちで慌てて着衣を整える。

 改めて周囲を確認する……が、ここはホテルの一室である。

 ベッドをとり囲む薄いカーテンの向こうには知らない人達がいて、忙しそうに行ったり来たりしている、なんていうことはありえない。

 すぐそばで毛布の中に埋もれている、夢の世界に堕ちたままの小さな女の子を除けば、誰も。


 安堵の表情、深いため息。

 そして小さな声を上げながら、猫のようにしなやかに、大きな伸びをした。

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