目覚め

「あ、気がつきました?」


 心配そうな表情をした女の子が私を覗き込んでいる。

 くりんとした幼くて丸い顔立ち。

 淡い色の、左右でまとめられたふわっとしたおさげ。

 ……小学生? 知らない顔立ち。


「ここは、どこですか」

「電車の中です! あの、階段を降りて、電車に飛び乗って……覚えてます?」


 そうだ。

 私は……


「ええと、思い出しました。助けていただいてありがとうございます」


 私は今、横になっていて、目の前……真上には女の子のお顔。

 頭の後ろにはサラッとして柔らかな肌の感触。

 それは間違いなく、ひざまくら。


「ああ、申し訳ありません」

「まだ起きない方が……顔が真っ青ですよ。ね?」


 あわてて起きようとする。

 けれど、頭を起こすと視界が歪んでボーッとして、ちょっと、辛い。


「そうですね。駄目みたいです」


 おとなしく力を抜いて、頭を預けることにした……けれど。


 すぐ目の前で、女の子に見下ろされている。

 今までに嗅いだことのない、甘みのある爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。

 この近すぎる距離感は、同性でも……苦手。


 だけど、この子には……どうしてかな、そんなに嫌ではない。

 子供だから? いいえ、私は小さな子も苦手。

 こんなことは、初めてかもしれない。


 私の額になにか、肌の感触が、ぺたりと。この子の……手のひら?


「熱はないですね。休めば大丈夫なのかな? じゃ、おめめをつぶって下さーい」

「風邪は引いていないです。ただ、元々体が弱い方なのです」

「無理しちゃった感じ、ですか?」

「ご迷惑をおかけしました」

「いいえ、ぜんぜん大丈夫です!」


 目をまん丸に開いて、両手も開いてぶんぶんと左右に振り回す。

 あわせて目の前でふりふりと揺れ動く、リボンで束ねられた二つのおさげ。


「……可愛い」

「え、何か言いました?」

「あ、いいえ。なんでもありません」


 その子が首をかしげて不思議そうな表情をした。

 あわてて取り繕うけど、私の顔が火照っているのがわかる。

 つい、口に出してしまって恥ずかしい。


 ……けれど。

 何故かこの子からは『他人と接する怖さ』をほとんど感じなかった。

 言われたとおりに目を閉じると、ゆらめく視界は暗闇に染まる。

 再び額にぺたりと触れる、肌の感触。そしてじんわりとした温かみを覚える。

 それは心が毛布でくるまれているような感じ。

 心のネジが緩んで時間が閉じていく、不思議な、感覚。

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