第12話「呪いを利用して、逆に勝とう!」

 漆黒の闇が支配する魔王城。その巨大な門の前で、レオンたちは身を潜めていた。黒曜石のように光る城壁が、月明かりを反射して不気味に輝いている。


 レオンの鋼鉄の鎧がかすかに軋む音を立てる。アイリスのローブが夜風に揺れ、その姿は月光に照らされて幽玄な美しさを放っていた。


「よし、作戦の確認だ」


 レオンが小声で言った。彼の赤銅色の髪が、緊張で少し汗ばんでいる。


「私が幻影の魔法で見張りの目を欺く。その間にレオンとグラムが潜入して、魔王の寝室への道を確保する。エルは外で見張り役だ」


 アイリスの声には、いつもの冷静さが感じられた。しかし、その瞳の奥には、かすかな不安の色が浮かんでいた。


 グラムは無言で頷き、斧を握りしめる。彼の鋼鉄の鎧が、月明かりに青白く輝いていた。


 エル・ファリスは、長弓を背に負いながら周囲を警戒していた。彼女の翠の瞳が、闇の中で鋭く光っている。


「では、行くぞ」


 レオンの合図と共に、一行は動き出した。


 アイリスが詠唱を始めると、城門の前に幻影が現れた。見張りの魔物たちは、その幻に目を奪われ、警戒の目を緩める。


 レオンとグラムは、その隙を突いて城内へと忍び込んだ。二人は息を殺しながら、薄暗い廊下を進んでいく。


 しかし、突如として警報の音が鳴り響いた。


「くそっ、見つかったか!」


 レオンが剣を抜く。グラムも斧を構える。


 魔物の群れが、四方八方から押し寄せてくる。レオンとグラムは背中合わせになって戦いを始めた。剣戟の音と魔物の悲鳴が、城内に響き渡る。


 その時、アイリスの声が通信魔法を通じて聞こえてきた。


「レオン! 時間切れよ! キスの時間まであと1分しかないわ!」


 レオンは呻いた。このままでは、キスの時間に間に合わない。呪いが発動してしまう。


「くそっ、どうすれば……」


 その時、レオンの頭に閃きが走った。


「アイリス、聞こえるか? 城内に入ってこい!」


「え? でも、作戦が……」


「呪いを利用して、逆に勝とう!」


 アイリスは一瞬躊躇したが、すぐに理解した。彼女は迅速に城内へと駆け込んでいった。


 魔物たちが押し寄せる中、アイリスはレオンの元にたどり着いた。二人は顔を見合わせ、決意の色を浮かべる。


「行くぞ、アイリス!」


 レオンがアイリスを抱き寄せ、深いキスをした。その瞬間、二人の体が眩い光に包まれた。


 魔物たちは、その光に怯えて後ずさる。光が収まると、レオンとアイリスの姿が現れた。二人の体からは、淡い光が放たれている。


「な、何が起こったんだ?」


 グラムが驚きの声を上げる。


「キスの力が、私たちを守ってくれたのよ」


 アイリスの声には、自信が満ちていた。


 レオンは剣を構え直す。その刃が、今までにない輝きを放っている。


「さあ、行こう。魔王の元へ」


 レオンとアイリスは手を取り合い、魔物たちの群れに向かって突き進んでいった。彼らの姿は、まるで伝説の英雄のようだった。


 グラムは呆然としながらも、すぐに我に返り、二人の後を追った。


 城の奥深くから、魔王ダークファントムの怒号が響いてくる。しかし今や、レオンたちの心に恐れはなかった。


 彼らは確信していた。この呪いは、決して呪いではなく、二人を結ぶ絆なのだと。

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