今カノの実家訪問

プロローグ

週末。

俺たちはスズの実家に行くために、北陸新幹線に乗っていた。


スズの実家は長野県長野市にある。ながの駅に着けば、スズの親御さんが迎えに来てくれることになっている。


「新幹線ってこんなに速かったっけ」

「そりゃあ、時速250km以上出てるから速いでしょ。でも、そうね。普段乗ってる電車と比べてるんじゃないかしら?」


それは確かにありそうだ。

窓の外を見ると、面白いように景色が後ろへと飛んでいく。

新幹線に乗ってはしゃぐ子供の気持ちが、よくわかる。


「普通の電車ってどのくらいの速さだっけ?」

「だいたい、30から90ってとこね」


さすが工学科。俺の疑問に即座に答えてくれる。


「駅弁、食べるか」


俺たちが乗っているのは、始発の列車だ。新幹線で駅弁を食べることを見越して、まだ朝ごはんを食べていない。

お腹ぺこぺこだ。


「そうね」


スズが頷く。俺は東京駅で購入した、二人分のお弁当を取り出す。


俺の弁当は唐揚げ弁当。そしてスズのお弁当はスタミナ丼だ。


「そういえば、アキ」

「うん?」

「水曜日、陽毬ちゃんから何か言われなかった?」


いつのまにか、スズの陽毬に対する呼び方がちゃん付けに変わっている。

もしかしたら、俺も知らないところで話したりしているのかもしれない。


……と、そんなことを言っている場合ではない。


「あー、まあ」


俺はどう答えようか悩む。

そして結局、全部言ってしまうことにした。


「まあ、告白されたな。まだ好きだって」

「そう」

「ああ」


俺は頷いて、駅弁の唐揚げを頬張る。

うむ。美味なり美味なり。


「大体は予想してたけど……そう。まさか、そこまで思い切りがいいとは思わなかったわ」

「……そうだな」


俺は唐揚げを一つ、箸で半分に切ってスズの口元に運ぶ。いわゆる「あーん」というやつだ。

スズは慣れた様子で、差し出した唐揚げ半分をパクリと食べる。


「というか、よく分かったな」

「水曜日帰ってきた時、若干上の空だったから、何かあったと言うのはすぐに分かったわ」

「あー」


まあ、一緒に暮らしている恋人の目は誤魔化せないか。


「まあ、様々な状況証拠から、特に何もしていないだろうってのはわかってたけど」


そういえば、水曜日は帰ってすぐハグを要求された記憶がある。甘えん坊だなと呑気に考えていたが、あれはもしや……


「一応言っとくけど、浮気したら……」

「……したら?」

「全部のSNSとGPSを管理するわ」

「ああ、うん……」


俺はちょっと怖いなと思いつつ、スズに管理されるのも悪くないなと思った。

我ながらちょっと変態である。

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