第44話 織豊竜馬 3



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「最近浜野さんが実現化したあのカムフラージュ・システムがあるでしょう。それまとえば、政治家や企業のトップ次々謀殺してエンマコンマがそいつらの代わりやればいいんだよ」

美香の会見は要塞ホテルでも観られていて、今の発言は保子だった。

エンマコンマとその関係者しかいないホテル。

広いエントランスホールに集まっている。

「七面倒くさいことやり始めたよねー」

こう云った戸泉レイはずーっと親の仕送りで、予備校に通うために上京した18の頃から20年間生きてきた女性だ。

帰ってきてもらいたくないから、仕送られ続け、今でも受験生の建前で生きていた。

だがそんなことを他人に言えるハズもなく、親しい友人を作らず生きてきた。

それがエンマコンマしてから、一変した。

ケガをさせたりはしていないが、たまに思い出したようにジェット・ユニットを使って実家に行き、嫌がらせをするのを無上の喜びにしている。

性犯罪で拘留経験のある杉多はその能力を使ってノゾキ、木本は債権者たちの財産を盗む等していて、綾瀬の引きこもり卒業だけがこのメンツの美点であった。

そしてヒマができるとSNSや動画サイト、匿名掲示板に自分らの活躍や能力を上げる。

大事にならないのは、竜馬が斗美らに気を遣い、一般人スタッフに監視させている、プラス、璃音やエプスタインらに要塞派をポインターで追尾してもらっているからだ。

フェイク動画と思われるようなものは彼らの自尊心を傷つけない配慮としてそのままにしてある。

「面倒ごと、ホント、みんな嫌いだよな」

この発言者である木本は起業家であったから、自然に皆のリーダーになっていた。

竜馬の指示で監督しているが、基本、ここのエンマコンマたちはまさに面倒くさがりな連中で、大事はしない・できない。

唯一の例外は保子であったが、党の命令で動いたきたように、自発的に動くタイプではない。

だが導火線にはなる。

「木本さん、浜野さんからそのカムフラ貰ってこようか」

有紀が云う。

「いや、有紀ちゃんさ、そんな隠密行動に特化したシステム、竜馬んトコには回してもうちにはムリっしょ」と木本。

「フーン、有紀ちゃんは浜野さんとエラく仲いいもんね」と保子。

「竜馬が嫉妬するんじゃん」と戸泉レイ。

「織豊竜馬は元老院の言いなりだよ。もう付き合いきれない」

有紀はこう云うが前節で竜馬が放った間者とは有紀のことである。

―有紀さぁ、オレの脚はもう治らないんだよ。

この追想は、有紀が気を遣っての発言の後の竜馬の台詞であった。

竜馬は23歳、有紀は32歳、そもそもは夫からDVを受けていた時に有紀をかばった竜馬で知り合った二人であった。

些細な傷であるならば、表面は有機質で形成されるエンマコンマは直ぐに回復する。

いや、それどころか犬澤がレーザー・カッター・アタッチメントを練習中に左手の薬指と小指を切断してことがあったのだが、ポロっと取れた2本の指の切断面同士をいちばん近くにいた璃音がくっつけると、みるみるうちに回復し、念のため養生テープでばみって数時間静養すると完全に動かせるまでになった。

だがそれ以上のケガを負うことは誰もが恐れて、誰も例えば、試し片腕を切り落としたりはしない。

実際、ショットガンを至近距離で受けた竜馬はずっと足を引きずっている。

襲撃現場では突拍子もないことが起こり、その時起こったことから雑居ビルの4、5階から飛び降りても無傷、軽トラックにはねられても無傷と証明されてはいるが、そういった衝撃に対しての強さ・超絶的な合服能力があっても根本的には破損や故障には対処できないのだ。

エンマコンマ自体が現在の地球の科学ではオーバーテクノロジーであるから、中世の人間が見よう見まねで自動車は運転できても修理できないのと同じだ。

有紀がそのようなことを思っているとガツンと大きな物体がブツかる音がした。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ~!チョ、チョ、待ってよ~!」

叫び声の主は清墨リイナ。

現在イヴィトール・ユニットを操作中だが、右側のブースターしか火がともっていない。

リーダーの木本と荒事専門の保子が抑えようと立ち上がりかけた時、リイナの背後から左の噴射するブースターを掴み、壁を蹴って軌道を変えた者のがいた。

胡桃沢翔、社員旅行中にエンマコンマ化した26歳。

二人は地面に着地し、有紀は二人に近寄り、胡桃沢とユニットを外すのを手伝う。

―右ブースターが作動していなかった。メンテナンス不足か。

斗美のペントハウスと新宿の青春共和国ビルに比べ、ここには整備員も少ない。

「こんなの私使う気ないし、もうズル休みもこりごりだし、帰る!」

リイナは交通事故時にエンマコンマ化し、直ぐにポインターに引っ掛かり、同盟に保護された。

機械の身体になった境遇を悲観するよりも、この身体でこれから生きる術を身につけることを第一に考えている。

「学校の方はなんとでもなるって云ったよね」

リイナはアイドル・グループ、イルミナティのメンバーで、高校進学を捨ててでも芸能活動に打ち込もうとしていた。

幼いからか、合理的な人間だからか、エンマコンマ化はむしろ好機と捉えた。

そして来年の春から青共学園入学も同盟に参加した時点で決定していた。

木本の「なんとでもなる」とはそういうことだ。

リイナはそのコメントにアイドルらしからぬ眉間のしわで答える。

「おうい!木本!そのコやイヤがってるよ~!」

竜馬が来た。

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