第39話 賀藤音矢 3



    3



音矢は取り外したアタッチメント2種の運搬と散乱するドローンの後始末を下請けのスタッフに任せたが、これは斗美の配下である。

信夫と江野は「じゃあな」とだけ云い、帰った。

洋二としてはせっかく出会えた〈同類〉である。

胸襟を開いて率直に話したたいので、正体や秘密を考慮しながら話すことは止めたかった。

スタッフにトレーラーで送ってもらうことも可能だったが、出方が判らない洋二をエンマコンマ同盟の施設に案内することは避けたかった。

そこで音矢は「弓、どこかカフェでも案内頼むよ」と云って、この近所に詳しい藍と弓が先行して並んで歩き、その後2メートルを音矢と洋二が並んで歩いた。

飯田安奈の襲撃事件が起きた神田川を四人は歩く。

「鮎川、あんたが最後のエンマコンマだ」

「エンマコンマ?」

「あんたが云う〈同類〉の名だ。春に脳内AIが29人を指す表示をしただろう」

「それが今まで無かったのか」

「ああ、その表示でエンマコンマは打ち止めになったと判断した」

「その5日後には17になったぞ」

「それは最後に話すよ。簡易式のアタッチメントめいたものに接続できるならば、爪毛USBは使いこなしているんだな」

「ああ。でもあれだけの兵器を作れるってのはそうとうの組織力がないとできないだろう」

「うん、去年の晩夏にその組織に合流した。質問したいことは多かろうが、まず自分がその状況になった時から話そう」

つまり音矢は駅のホームから落下し、社会的に死んだことからだ。

その後、ミダスの力を使い、アジトとして賃貸をいくつ借り、暴力団や警察署から武器を盗み・それらの研究・訓練をして、他のエンマコンマを見つけるようネット内で痕跡を探したことを音矢は語った。

「そうか、こっちは見つかったら厄介だと思って、見つかったら直ぐに判るよう網を広げたが、能動的に他のエンマコンマを探すようには一切しなかったな」

「それはある意味で正しかった。実際、その網目状に触らないようにすることでこちらはあんたをリークしてから今日出方を見るまでひと月かかった」

洋二はネット内に地雷のようにバラまいたポインターと逆探知機能を付与したホッパー、そして最近導入した探査したところが直ぐに判るマーカーの解説をした。

「そこいらは最近下請けの組織に丸投げしていた。だがエンマコンマの索敵システムをエンマコンマ自身が使う場合と比較して落ちる。だから見失ったのだろう」

―エンマコンマをエンマコンマ以外が使う?

その疑問をぶつける前にエンマコンマ同盟のアウトラインの説明が始まった。

女性ばかりのメンバーで立ち上げがなされ、兵器開発のコネがあったことから最初期に技術部門が創設されたこと、その部門が爪毛USBでた易く接続できるアタッチメントとユニットの開発が急ピッチで進めたこと。

そして仲間が増えたこと、特殊詐欺グループと半グレ組織を壊滅させたこと。

「あれ、おまえらか!そういやぁ、謎の多い事件だったが、あれは同じ組織の仕業だったか!」

「エンマコンマの能力単体だと、オリンピック選手の身体能力がちょっと良くなった程度なんだが、アタッチメントとユニットの配備とトレーラー要員のバックアップで大規模侵攻が可能になった。攪乱工作により警察にも尻尾を掴ませない。さっきやったのと同じだ」

「あ!警察や一般市民に通報されないよう、ジャミングしながら戦っていたから、さっき負けたとか云っているのか!?」

「違うよ!邪推だよ!」

こういう同世代の同性とのこういうじゃれ合いは久々だな、と音矢は思った。

学校生活から切り離されて、犯罪と犯罪者に触れる隠遁生活、そんな危険とエンマコンマ同盟に弓を会わせたくないのでなるべく会わないようにしてきた。

エンマコンマ同盟内も、普通の若者はいないため、現役高校生のエンマコンマである洋二とは警戒は必要だが、たまにそれが、既に緩む。

「前にいる弓って子もエンマコンマか?」

「違う、妹だからついてきた」

普段ならば洋二が云うところのポインターで自分を尾行する人物はアラートが教えてくれるのだが、対洋二用に用意したアタッチメント2種を、終業式後の弓と合流した後、トレーラー内で調整に集中したため、意識を遮断していたのだ。

「賀藤、妹はおまえがエンマコンマだと知っているのか?」

「さっき言ったように死んだ身だ。説明はしてある。あんたはどうなんだ?」

「藍に、か?」

洋二は目線を藍にやる。

音矢は頷く。

「教えていない」

「エ!?あのコ、なんともフシギに思ってないの!?」

「うん。そうだ」

「ちょっとおかしいんじゃねーの、あんたのカノジョ!」

「うーん、やっぱりおかしいよね」

否定しないのか、と心の中で音矢が思った時に我に返った。

―もう30分は歩いているじゃないか!

「弓さ、どこだっていいんだ。ちょっと座れればさ」

「賀藤さん、もう着きますよ」

藍は音矢の名前を確認するように呼びかけ、答えた。

弓と藍が指差したのは五日市街道沿いにある焼肉食べ放題のチェーン店だった。

音矢は洋二の耳元に「やっぱり、おかしいよ、この子!さっきまで殺し合いやっていた超常の超人がこれからのこと話し合うのに、なんで焼肉食べ放題なんだよ!」

「聞こえていますよ」

藍は不快そうな表情で云う。

「そういう話だからって云ったんだけど、藍ちゃんがお得な店だからって勧めてくれたんだよ!入らないと失礼だよ!」

つまり弓も入りたいのだ。

「弓ちゃんさぁ、ちょっとカレシさん、失礼な人だよね!」

―カレシ?

あとで藍と答え合わせしないと。

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