第37話 賀藤音矢 1
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洋二は信夫と江野だけでなく、桜木にも〈チャンピオンシップ・フレンドシップ〉の部室にある機材やノートPCを持ち出すように指示した。
信夫と江野には別の指示も出したが、ここでは秘密にしておく。
校内放送をジャックし、下校を促すアナウンスを入れた。
職員室は生徒の逮捕と理事会の乗っ取りで大混乱に陥っていたので、咎められることはなかった。
そして校庭には誰もいない。
その空き地を洋二が突っ切る。
木陰に隠れていた洋二と同い年くらいの男性が彼の前に立ちはだかる。
「ようやくお出ましか」
木陰から出てきた男。
「名前を聞かせてもらおうか」
眉間にしわ寄せた洋二。
「賀藤音矢」
音矢は微笑しながら答える。
洋二はこの学園の隣のビルにひと部屋確保していた。
その屋内以外にも校内にも何十機も仕掛けている。
それとは何か?
ドローンだ。
合計百機程のドローンが、一斉に音矢に襲い掛かる。
音矢、拳銃で次々とドローンを撃ち落とす。
だがドローンの数は多く、次第に増えていく。
音矢はこの時、警察への通報を抑えるため、周囲2㎞の全通信網やネットインフラを遮断していた。
だからドローンのリモート遮断まで手が回らなかった。
致命傷を与える装備は付いていないものの、その数はあまりにもウザい。
だが洋二も気づいていた。
ネット内に張り巡らしたホッパーやポインターでこっちの正体がバレたのならば、その購入履歴からこちらがドローン使いだとバレているとは当然だということを。
音矢の左肩に反り返っていたジャマー・アタッチメントがガシャンという音を立てて左腕にジョイントされる。
ドローンは3メートルの距離の近づくと、全て音矢の管理下に入り、逆に洋二を襲うようになる。
ジャマー・アタッチメントを振る度に、ドローンは演奏されるテルミンのように音矢のいいように使われる。
だがホストは元来こちら、洋二はドローンを盾にして、距離を取っていたのだが、近づいてドローンの乗っ取り合戦を仕掛けた。
音矢の右肩に反り返っていたレーザー・カッター・アタッチメントがガシャンという音を立てて右腕にジョイントされる。
エンマコンマにはエレクトリックマグナス・アタッチメントでの攻撃ではその人工の身体への致命傷にならない。
だがレーザー・カッター・アタッチメントは違う。
切断が可能だ。
それはエンマコンマ内乱で証明されていたのだ。
拳銃の弾丸くらいならば正確にエンマコンマは避けることができる。
だがそれは点の動きだから可能なことで、線の動きをする剣のようなレーザー・カッター・アタッチメント、しかも振り上げた時には刃渡り1メートル以上にまでもなる線の動きは回避し切れない。
そこで洋二はドローンを自分の身体に貼り付けるよう動いた。
ドローンが叩き落される0.0数秒のタイムラグがその回避を実現化させた。
ドローン操作のアウトプットに対し、神経パルスがドローンからの衝撃をインプットするからできる手段だ。
しかし、大出力のレーザー・カッター・アタッチメントは烏合のドローンより強力に過ぎた。
洋二は、戸籍上は死んでいる音矢のように学校に行かなくていい身分ではないので、彼のように暴力団や警察署から武器を強奪して、練習するような発想さえなかった。
例えば拳銃だが、あれはあれでた易く撃てているように見えるが、ジャムった時の対処法や手入れ等、それなりの練度が必要なものだ。
かといって、斗美のようなアタッチメントやユニットを開発するような才能や資金もなかった。
そのために①ネットに索敵システムを張り巡らし、②ドローンを山のように使って攪乱の戦法を選び、③もし追われた時のために都内に十数か所のアジトを用意するという消極的な方法を取った。
なによりエンマコンマ化したとはいえ、洋二は現在日本の高校生である。
相手を殺すような発想は取れなかったと云える。
それは実際に社会的に死んでいる音矢とそもそも社会や家庭を捨てて・反社会的な世界に身を落としていたハヤテとは違う点だ。
現在、音矢と出会って、二つのアタッチメントを目にし・威力を知り、「その手があったか!」と危機なのに洋二は感動した。
エンマコンマの髪の毛や爪、それこそ体毛もUSBメモリのようにオプションであるアタッチメントやユニットの接続コード兼差込口となる、この発想が洋二にはなかった。
それはネット内への侵入が脳内で行えるから、これの使い方は別にあるようだと考えてことからの発想なのだ。
反り返っていたアタッチメントが一瞬でジョイントして武器として転用できるとは、そうとうの技術力と組織力がないとできないよな、とも洋二は思った。
―29体いた〈同類〉があの春の、あの日に17体になった。
つまり、未だ17人、目の前の賀藤音矢だけでなく、複数いるということだ。
―消極的な対応だけでなく、攻撃力ある武器を用意しておかないと逃げきれない。
そして今、音矢は、①近隣のネット環境を3㎞圏内において支配下におき、②未だ数十機いるドローンにをあと数秒で削り切れ、③フェイント攻撃の多い洋二を相手にしている。
そこに肉体を持つ有機物である学生が近づいても、もう1メートルの距離でも気付かなかった。
正確には気づいたのだが、歯牙にもかけなかった。
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