第34話 ハンニバル 4



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ハヤテが歌舞伎町に戻って、最初にしたことは店長の売春組織の壊滅だった。

店長は、その過程で街から姿を消した。

彼が今後この物語に登場することがないことをここで明言しておく。

だがこの街に集う家出少年・少女を喰いものにする大人の組織は多勢にして、多種であった。

古えからの暴力団、アジア系の犯罪組織、半グレ集団と店長の趣味と実益を兼ねた小集団とは規模が違うレベルのグループが乱立していた。

中堅どころの半グレ組織のボスを半殺しにしたことがあったが、ハヤテは直ぐに後悔した。

ハヤテの顔は割れていたので、周囲の知人が四人ばかり半殺しの目に遭った。

その四人を直ぐに街から逃がし、自分も潜伏した。

その過程で、エンマコンマの身体能力で悪人たちの組織から現金を奪った、つまりミダスをハヤテが知ることになるのは竜馬や音矢と出会ったのちのこととなる。

逃走資金や金で解決できる案件のための現金であったのだが、個々の案件を当たると荒事になることも多く、そのためにハヤテは慣れない隠密行動を取ったのだが、元来そんなはかりごとが不得手なため、この街の少年少女のために活動する目的意識を失いかけていた。

美香から竜馬に下った指示は、いつまでも搾取される烏合の衆であるのが問題なので、やくざ・アジア系・半グレと同じくらいの規模の家出キッズという集団を形成するように、というお達しであった。

美香としては、そういう家出キッズを後に美香のタームでいうところの〈正規軍〉にしたいという考えであったのだが、それならば、まずは群れを為すべきという考えのようだ。

そうなると、本国から有象無象の救援がくるアジア系と全国規模の組織の末端である暴力団ではなく、小回りが利き・ベンチャー企業の悪人版で・タチは悪いが・いちばん一枚岩でない、半グレ組織を壊滅し、そのまま取り替わろうということとなった。

それにハヤテとしては他の街に入院している仲間のカタキでもあるのだ。

まず実行日の前の週に、各暴力団の幹部クラスにカタキ討ちの名目から、半グレと自分らの抗争に関わらないようにと竜馬が釘を刺しておいた。

半グレ組織は違法ドラッグ売買や悪質ホストクラブの経営、売春の元締めやSNSでのそれらの宣伝を営んでいた。

オチを言ってしまうと、竜馬はいくつかの暴力団に半グレ組織への殴り込みの前情報を伝えたのだが、それは確実に繋がっているであろう、暴力団と半グレ組織の繋がりを見極める手段でもあったのだ。

実際、襲撃前に二つの暴力団がカチコミの準備をし始めた。

それはエンマコンマのモニター能力で直ぐ判明した。

織豊竜馬が率いる、犬澤、木本、杉多、綾瀬、戸泉、澤洋保子、神無月、村田、原、向井、京本、大槻、室賀、計14人のエンマコンマ集団が、左手にゴム弾を仕込んだショットガン・アタッチメントと右手に仕込んだエレクトリックマグナス・アタッチメントを装備して、二手に分かれ、その暴力団の事務所を襲った。

ゴム弾はエンマコンマの索敵システムと同期することで100パーセントの命中率を誇り、やくざ相手なので、重傷を負わせるマックスレベルまで解除してある。

エレクトリックマグナスとは熱した警棒のようなもので、手の甲や顔に当てるだけで、大の男が泣き叫んで地面を転げ回る程に致命傷を与えるものだ。

浜野や熊本らの兵器開発班は対ニンゲン用で、殺傷能力を調整できる武器の開発を進めた成果であった。

その上、今回からはトレーラーにボンバー・コンテナというオプションを取り付けた。

いわゆる人間大砲であり、コンテナの発射穴は5個開いており、そこから人間以上の運動能力と耐久力を持つエンマコンマのみを射出することができるのだ。

場所を取り、接続にそこそこ時間がかかる飛行ユニットの欠点を補うために開発された。

エンマコンマ1名を20メートル以内ならば距離を測り真上に打ち上げることが可能だ。

この強襲戦はあっけなく終わった。

竜馬は直ぐに警察へ通報し、この2組織は壊滅したこととなり、同時に他の暴力団への恫喝ともなった。

その襲撃のさなか、ハヤテは音矢と共に雑居ビルの屋上にいた。

「おまえのハンニバルって、やっぱりカルタゴの方じゃなくて、ミステリの方なのか?」

「?」

「映画でも有名なヤツだよ」

「映画にもなっているのか?スマホゲーの女の子から取ったんだ」

そのハヤテの答えに音矢は苦笑を浮かべ、その苦笑はあたかも合図のようであった。

向いの雑居ビルのテナントには全て半グレ組織の関連店が入居していた。

このような事態、最上階8階の事務所以外は閉店している。

誰もいない。

そのことはサーモセンサーによりハヤテも音矢も理解していた。

最早アタッチメントでは容量が追いつかないため、このレーザー・ビーム・キャノンはユニットとして製作された。

レーザー・ビーム・キャノン・ユニット、以前製作されたレールガン・アタッチメントには不具合が多かったので、それよりも大容量の光ファイバーとスタビライザーを持つレーザー兵器をそもそもユニットとして開発してしまおうという設計思想で生まれた。

数十メートルの高さと十数分の飛行ならばホバリング可能であるから、音矢はこのユニットごと屋上に来られた。

発射!

向かいの雑居ビルのど真ん中に直径5メートルの大穴が開く。

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