第32話 ハンニバル 2
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賀藤音矢はミラーシェイドのサングラスをかけていた。
今から約五か月前にエンマコンマ化した音矢はこんなことが自分の身に起こるのならば、他人にも起こっているハズだ、と〈同類〉を探すことにした。
幸いにも戸籍上では死んでいる身なので、時間はたらふくあったし、ミダスによって得た資金もあった。
(エンマコンマ同盟は最近ミダス逆探知を行っていないかった、ミダスの逆探知は浜野らには出来ず、エンマコンマじしんにのみ可能)
二浦沙也のブログは既に消されていたが、椎名亜夜子とハヤタ斗美の件はニュースにもなったから、これはと思い、二人をマークし始めた。
それとは全く別の観点から、警察の情報網を漁っていると特殊詐欺グループを壊滅させた組織が存在していて、それが最近になり、関連する東南アジアの組織も潰したとの情報が入り込んだ。
なんの確証もなかったが、音矢はそれを〈同類〉の仕業と直感した。
これだけ大掛かりな作戦を遂行したとなると、それなりの経費と人員が必要となる。
それはおそらく数千万単位で、人員も百人くらいは必要。
そこで賀藤がネット内の微細な痕跡を徹底的にあぶり出し、浜野の会社の従業員を一名絞り出すことに成功して、脅迫めいたことをしでかし、ブラフで出したハヤタ斗美と椎名亜夜子が首領格と判明し、特殊詐欺グループ殲滅の経緯と、その指揮を執っていたのが織豊竜馬であることを突き止めた。
そして、今音矢はここにいる。
深夜なのに何故かサングラスをかけているのは、正体を隠したいからなのだろうか。
竜馬がじりじりと詰め寄る。
音矢は竜馬と違い、荒事と関係ない人生を送ってきた。
だから竜馬のウエイトと暴力臭から気迫負けすることは以前尾行している時に察知していた。
だが音矢もこの数か月、エンマコンマの身体を扱いこなす自主訓練は積んできたのだ。
故に、竜馬の最初の回し蹴りはかわせた。
そのうえ、回し蹴りからのかかと落としを後方に飛んで、逃げ、その刹那、ジャケットの内ポケットからある物を取り出した。
取り出すと同時にピンを抜く。
それは閃光弾!
深夜の繁華街の片隅が一瞬だけ、真昼のように光る。
至近距離であることから、竜馬は怯む。
音矢はそこで側頭部に向けて蹴りを入れる、が、さすがは竜馬、防御もせず、地面に突っ伏すことで避けた。
音矢は態勢を整える。
竜馬は立ち上がる。
現在、閃光のハレーションが尾を引いている竜馬の方が不利だが、荒事のプロパーはやはり竜馬、一日の長がある。
音矢は保険に暴力団事務所から盗んだ拳銃をそこいらの植え込みに五丁ばかり隠していた。
勿論自分が携帯すればよかったのだが、重さによる服の歪みから竜馬程の暴力慣れしている相手ならば、直ぐに気づかれる。
だがそれも竜馬の出方次第である。
「ハンニバル!そこの大きい方の男です!」
先に竜馬に目を付けられていた少年が読んだのがハンニバルで、そのハンニバルとは、野原ハヤテであった。
あれから、ハヤテは歌舞伎町に戻り、エンマコンマの身体とその能力を使って少年たちの後見人のような立場になった。
揉め事に割って入り、ルールを守らないヤツや汚いマネをするヤツを殴ってきた。
板橋で店長に撃たれたのは未だふた月前の出来事であった。
「あんたか、最近ここいらでオレらの仲間に声かけているおっさんは」
ハヤテは竜馬の存在を仲間からの密告で認識していた。
だから、そいつが現れたら、知らせるようにと周知していた。
ハヤテは怒っていた。
親から貰った身体を無くして、砂子のいるこの街が彼の全てとなったのだ。
その街ではしゃぐガキは潰してやるのだ。
そう思って来たハヤテだったが、この二人はついさっきまでエンマコンマの身体能力をフルに使って競い合いをしていたのである。
動きで、常人でなく〈同類〉だと認識した。
相手その気づきは竜馬がミダス逆探知で竜馬が散々見てきた〈素振り〉であった。
だから竜馬もハンニバル=ハヤテがエンマコンマだと判った。
二人のその無言のやり取りを見て、音矢もハヤテが〈同類〉と認識した。
だが音矢はハヤテを、ハヤテは音矢をどう対処するかを考えあぐねていた。
「おい、グラサンのおにいちゃん。あんたからはカタギの香りがする。さがってなよ」
さすがはこの街で大人になったハヤテ、音矢の本質を見抜き牽制した。
ハヤテは洋二や音矢より背が低いので、むしろそれを利点として空中での円舞を得意とした。
竜馬に向かっていく。
エンマコンマの身体能力で跳躍。
そしてビルの壁を蹴り、三角蹴り、否、更に竜馬の背後のビルを蹴り、四角蹴りからの五角めが竜馬にヒットする予定。
三角の途中で音矢にもその意図が察せられた。
それは竜馬も同様だ。
音矢は植え込みの中に入れたマックの紙袋から取り出した。
二丁の拳銃!
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