第30話 藤谷みゃーこ 5
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エンマコンマという同種族の仲間による結束が今回の目的の一つではあった。
だが予想を上回る経費は作戦前には美香や斗美には気が付いていた。
特殊詐欺グループからかき集めた口座の預金から賄うという発想も浮かんだが、それは当然の如く、自分らが特殊詐欺グループを率いる自体を招きかねないと想像に難くない。
「カエサルの物はカエサルに、というでしょう」
と美香が新約を引用した真意は、このままにはしておけない特殊詐欺グループのリーダー格のことであった。
リーダー格の中に斗美が面識ある男性がいたのを見つけた時に彼女は驚くことはしなかった。
―周囲で誰が真犯人っぽいかと問われれば、確かにこいつが筆頭だよ。
起業家たちのサロンで、大学同士の学園祭実行委員会の集まりでそれぞれ一回ずつ会ったことのあるその男、足立に今、斗美は三回めに会うことになっていた。
下部組織が警察に捕まっても、フランチャイズ方式だから自分のところまで官憲は来ないとタカをくくっているだろうとは想像できたが、まさかベッドの中で高学年の小学生三人(うち一人は男の子)と寝ているとはさすがに斗美も想像つかなかった。
掛け布団をはがしたのは竜馬で、斗美は後方に隠れていた。
璃恩に合図を送り、その子ども三名に服を着せ、この部屋から逃がすように促す。
「あんたの口座に特殊詐欺グループの全預金を返してやったゼ」
イヤホンを付けている竜馬は右耳で斗美が云うことを足立に再現している。
「その金は被害者のお爺さんやお婆さんにあんたが動いて返すんだ」
と竜馬は続ける。
斗美は足立の反応を訝しく思った。
どの席でも自分がいかに頭よく・素晴らしい男かを冗談交じりで語り、いつも取り巻きを引き連れていた。
頭はいいのだろうが、この世に生まれて本を5冊くらいしか読み切ったことがない頭の良さだ。
―!
気づいた斗美は叫ぶ、「竜馬、離れて!」
足立、ベッドの下からショットガンを取り出し、連続して2発を竜馬の腹に打ち込み、後方にいた斗美、更に後方にいたみゃーこと沙也にも放った。
女性陣三人は竜馬が矢面に立っていたことと、斗美のひと言で回避できたが、竜馬はまともにくらった。
「カー!カッカッカッカカカカカー!既に東南アジアの本体と合流する予定さ!だが一矢報いないと腹の虫が収まらねー!さぁ、後ろの三人は女だろ?オレは腹に鉛玉ブチ込んだ女とヤるのが大好きなんだよ!それを今からオレはする!」
竜馬は血を流してはいたが、それは表面上のもので、エンマコンマ化のカムフラージュに過ぎないし、反動で衝撃を受けたことより、不意打ちを受けた悔しさが勝り、立ち上がると同時に、足立のショットガンを右手で奪い、その後は彼をタコ殴りに殴った。
「お止め!」
斗美は後に洋二も使ったヴォイスチェンジャーで竜馬に語りかけた。
止める寸前に竜馬は足立の顔面を渾身の力を込めて右足で踏んだ。
「足立よ、学生崩れのインテリ半グレをまとめてくれ」
斗美は声を変えたままで云う。
でも足立は意識しないと今は呼吸ができない。
「聞こえてはいるよね。上納金は収めてもらうし、その本体ともいずれは話す。でも今回は被害者たちの金を戻すんだ。警察や裁判所でなく、自分で戻すんだ」
斗美と美香はこのリーダー格グループを傘下に収めることにした。
サポートメンバーのエンマコンマたちは今回の一件で結束は固まったが、調子に乗るであろう。
ならば、自分らと違い、金も女も自由にできて、しかも幼児売春の客でもある上級国民の犯罪者グループを管理するとは彼らの仕事として上出来であろう。
そして、なによりもしこれ以降にエンマコンマの正体が日本政府にバレた時のために、国外に逃げる算段をつけておく必要があった。
政府を欺くには反社会的勢力を仲間につけておく必要があるし、しかも東南アジアにコネクションがあるならば最適である。
当面、彼らの組織を乗っ取ることにエンマコンマ同盟は動くこととなる。
渋谷と恵比寿にあるこの中間のホテルは足立が関係する団体がオーナーである。
昼間のパーティーからペントハウスが手狭になったことを感じていた斗美はこのホテルをエンマコンマ同盟の基地として使うことになるのだが、そこは屋上にカタパルトを設置し、直にジェット・ユニットに飛び出せたり、トレーラーが40台入るよう、地下駐車場を改造したりするので、完成はもう少し後のこととなる。
竜馬が足立を背負い、亜夜子は斗美に付き添う。
みゃーこは一人立ち去る前、乱れたベッドや竜馬のカムフラージュ血液を見た。
―この方角で本当に合っているんだろうか。
本当に美大の二年生になり課題が増え、連載も2本抱えているのでみゃーこは多忙なのだが、今回のことを機に、みゃーこがペントハウスに来る回数は忙しさを理由に激減する。
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