第26話 藤谷みゃーこ 1



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天田有紀とその娘・こより、それに織豊竜馬が斗美のペントハウスに来てから春が過ぎ梅雨になり、夏が来た。

斗美は自分の会社、沙也は大学院での研究、亜夜子は大学生活と女優業、みゃーこは美大と漫画家稼業と実は常駐しているエンマコンマが今までいなかったのだが、境遇的に表に出られない有紀がそれを務めた。

自分の身体の変化を受け入れ、浜野や熊本たちの開発にも協力した。

有紀にしてみれば、こよりと不自由なく暮らせることと同性の友人がいっぺんに大勢できたことだけで幸せだった。

同時に二度も自分を助けようとしてきてくれた竜馬が近くにいることも心強かった。

その竜馬はコンビニのバイトを辞めて、ペントハウスにしょっちゅう来ていた。

住んではいなかったが、すると無職も同然なので、ガーディアンの仕事はマメにネットで探していた。

この竜馬の稼業に関しては斗美以外の女性三人は否定的な意見を申し立ていた。

「判るよ。危険だし、なによりタチが悪いよね。でも、そのうち私たちはもっと汚い仕事をしなければならないのも判るよね」

天田母娘をそれぞれ当局から奪取したのは確実に違法行為であった。

でもそうしなれば仲間のエンマコンマは救えないし、有紀が精密検査を受ければ、自分らも危険に晒される。

斗美はそのことを云っているのだ。

同時に、この頃の初期メンバーは学歴も高く、地位も名誉も持つ若い美貌の女性で占められていた。

三十路のシングルマザーの有紀や高校中退した独り愚連隊の竜馬のようなエンマコンマがこれから入ってくることの方が可能性は高い。

そうしたら、どこかでその常人以上の能力のガス抜きが必要になる。

すると殺すまでにはいかないガーディアンという稼業はちょうどいいのではないか、と斗美は思っていた。

そう、ガス抜きと云えば、格闘技練習は竜馬は勿論、女性エンマコンマたちも積極的に参加し、斗美参加になるエンマコンマたちは自分の身体と変わらずに動かす義体モードを使い、違和感あり操縦然とするコクピットモードは使わなくなった。

竜馬は趣味の稼業と体術練習に加え、今まで浜野たちの配下にやらせていた諜報活動や潜入捜査もが受け持つようにもなった。

竜馬は斗美の才能とカリスマ性に私淑していた。

だから斗美の指示は何でも聞いた。

最近では熊本と組んで新装備の光学迷彩、しかもアタッチメントやユニットまで透明にさせ、質量も相手に感知されない性能、の開発を進め、自分の任務の糧としている。

間者としての役割を全うしている竜馬は気づいたことを斗美に告げた。

「ここ最近、斗美さんを追っている者がいますよ」

「判っている。切り出すまで待っているんだ」

追っている者とは川嶋美香。

斗美はなんとなく忘れ難い女の子としてくらいは美香を覚えていた。

このようなカラダになり、何度も犯罪めいたことを行い、会社社長の未だ20代の斗美ではあったが、なんとなくくらいのでレベルであったが憶えていた。

そこにインターフォンが鳴る。

「お届けものです」と。

竜馬がつかつかと玄関に向かう。

その後に続く斗美。

宅配業者を睨み付ける竜馬。

遮る斗美。

「このおにいさんは変装じゃないよ」

斗美の言葉に後方へ退く竜馬。

そのタダならぬ雰囲気に宅配業者はすごすごと退散する。

勿論サインは斗美から貰っている。

「思った以上だ。私の住所と名前を突き止めて、これを選択するとは」

宅配業者が置いていった段ボールを斗美が開封する。

中から、万歳した美香が出てきた。

「ハヤタさん! 来たよ!」

「単純なだけにそれは気付かなかった!」と竜馬。

「みゃーこ、お茶を煎れておくれよ」

斗美のその言葉にみゃーこはカモミールの茶葉をティーポットに入れ、I’m donut ?の生フレンチクルーラーと焼き栗ベリーカスターを人数分用意した。

まず美香が率直に今までを話した。

普通の人間の、浜野や熊本といった組織内の運営者でなく、そのうち必要となる自分たちのスポークスマン的立場の人物を斗美は欲していた。

―この子は故郷を家族を捨ててきている。

次に斗美が素直に話した。

自分たちがどういう存在に変わってしまい、何が出来るようになって、何が失われたのかを。

横で聞いていたみゃーこは皆のお茶のおかわりを気にしていたのだが、竜馬はそこまで話すのかよと怪訝な表情をした(斗美の組織力とは起業の際でもそうだが、この即効性である)。

次に自分たちの今の目的、この身体に装備するユニットやアタッチメントの開発、エンマコンマになった仲間の確保を語った。

聴き終わった美香はまず「何があっても、このことは他言しないことを約束致します」と云った。

浜野とその配下もそうだが、その約束は当然させるのだが、同時に第三者にバラすことが無いよう終日監視対象でもあるのだ。

消すことまではしなくとも、その者が何を喋っても信用されないような社会的状況を作り上げればよいと斗美は考えている。

実際、これは竜馬が全面的に動いたし、エンマコンマの秘密を知ったというワケではないが、天田有紀の夫はそもそも行っていた麻薬の密売を警察にバラし、冤罪を更に追加し、十数年は刑務所から出られない罪を作り上げた。

「そして皆さんはその〈ミダス〉という能力で集金して運営しているようですけど、それをしたら判るものなのですか?」

それは皆を咎めているような質問であったが、そんな皮肉を美香は入れた気はなかった。

「アカウントでもいうのかな。ネット内で集金した主体はあるにはあるので追うことは可能だ」

斗美はその後に「でもやらない」という一行を省略した。

これも犯罪行為であるし、運営資金を最も多く出している斗美はいちばん〈ミダス〉を使用している。

この後ろめたさから、誰も仲間の〈ミダス〉の痕跡を探ろうとしない。

「咎めているワケじゃないんですよ。でも天田さんのように気づかない人いるし、最近になって脳内コクピットのイメージを掴めた人がいる。人によってそれぞれ。でも〈ミダス〉はその能力から、エンマコンマになって絶対使うと思いませんか?」

その通りで、偶然だが洋二もその能力に〈ミダス〉と名付けることになる。

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