第24話 椎名亜夜子 4
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藤谷みゃーこが参加した頃、浜野が連れてきた熊本銃三という男が組織のペントハウスに出入りしていた。
彼じしんはエンマコンマではなかったのだが、海外の軍需産業の上席で、そのコネクションと知識は重宝がられていた。
この時点では斗美と三人のブレーン~浜野、矢部、澤井としか交流を熊本は持たなかったのは、特に何かワケがあったということではない。
単純に椎名亜夜子と二浦沙也に用向きがなかっただけである。
そして斗美をリーダーとし、浜野、矢部、澤井に熊本を加えた4人がユニット開発と新たなエンマコンマ発見のための捜索を受け持ち、亜夜子、沙也、みゃーこの3人がユニットの試験運用と実際のエンマコンマ確保に奔走した。
この斗美の組織の5番目のエンマコンマは天田有紀である。
彼女は斗美たちに新聞記事というカタチで見つけられた。
夫に重症を負わせたというものなのだが、そもそもアパート階段上から、酔った夫に突き落とされ、ひと晩、階段下で意識を失っていたというものである。
その間、何人もその階段を上りそれぞれの部屋に帰って行ったのだが、誰も彼女を助けるものはいなかった。
天田有紀の夫のDVはこのアパート、否、近隣でも有名で、誰しもが関わり合いになりたくなかったのだ。
階段下にはべっとりの血液がこびりついていたのだが、ともかく天田有紀は起き上がった。
そして帰宅すると朝6時だというのに未だ酒を呑み続ける夫から「今までどこ行ってやがった!」怒鳴られ、殴りかかってきたところを返り討ちにしたのである。
記事には痴話喧嘩ふうに語られていて、階段から突き飛ばされた一件は載っていなかったが、同じアパートの住民がその朝にSNSに『血がベットリ、奥さんこの状態でひと晩放置されたらキレますwww』との発言から、皆はその間にエンマコンマ化したと判断した。
すわ、じゃあ早速スカウトだと思ったのだが、現在は既に官憲に捕縛されているのである。
彼女たちとして、勿論同じ境遇になった者に仲間意識めいた動機から連帯したいという気持ちがあったのも確かだが、エンマコンマになった者がその身体を公にする、又は今回のように本人が望まなくとも、司直に調べられて結果、その存在を認識されるのを恐れたのである。
―早いうちがいい。
斗美のそのひと言で決まった。
トレーラーにはバックアップ要員として、みゃーこが残った。
そのトレーラーの運転席と助手席には浜野が手配した男二人が腰かけている。
春、三人は薄手のトレンチコートを羽織っている。
深夜、三時。
いちばん背の低い斗美を先頭に、髪をアップに束ねた沙也とショートボブの亜夜子が続く。
三人ともレイバンのサングラスをかけている。
銀杏並木の通りにある警察署。
間取りから既に留置場の場所は抑えてある。
エンマコンマの跳躍力で、裏手の駐車場からの侵入を計画していた。
だが駐車場には男が一人いた。
刑事か!?と三人は思ったが、その男も三人に気づいた。
警察署の敷地外に男は塀を超え、一瞬で出た。
斗美は沙也に合図を送る。
一人で天田由紀を確保に迎え!という意味だ。
沙也も一瞬で塀を超える。
その動きに男が反応を示したことが斗美と亜夜子にも判った。
斗美ら四人はペントハウスの地下に借りてあるジムで体術や格闘技の研鑽を積んでいた。
その身体は確かに内部で操縦しているロボットなのだが、実際はそのストレスを感じず、以前の自分と同じように動ける。
そしてその身体は常人を超える能力を有する。
スピードやジャンプは常人の約3倍、握力や打撃力もそれに準じる。
すると素人娘の四人も興味がわく。
―やってみたらどうなるのか?
自分の能力をフルに使うということは楽しいことだった。
浜野たちの調査で、エンマコンマの身体が有機体でなく、セラミックに似た物質が肌の下にあり、防御力と耐久性にも優れていると知ってはいたが、実際エンマコンマ同士でやり合うと自分のカラダが肉で出来ていないことに気づく。
熊本が手配したインストラクターにより護身術を学び、格闘技も今は練習していた四人だった。
その練習の最中、初めて、脳内コクピットにいる自分を意識したのはみゃーこだった。
亜夜子の蹴りを側頭部にくらった時に、脳震盪のような状態になって、羊水で満たされたような空間に突如飛んだようなイメージに包まれたのだ。
そこから四人は普通に常人の如く身体を動かすモードとロボットのコクピットいるモードの切り替えを覚えた。
そして脳内コクピットから全身を操る神経ラインがおそらく無数に出ているため、脳への衝撃がエンマコンマの弱点であるとも知った。
―さっきのジャンプ力、こいつもエンマコンマだ!
斗美は左足を軸に右足で男の側頭部を狙った。
だが左手の手の甲でなんなく防いだ。
―こいつ、闘い慣れしてやがる!
この惑星で最初のエンマコンマ同士の戦いはこうして始まった。
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