CALL RIVERTÀ

なんぢゃ

第1話 思いの帰り 

ジータは将来、何になりたい?」


どんな答えを出したのだろう。もう、思い出せない。



「リベルタファミリー」


4年前、この国を牛耳っていたファミリーだ。

ボスの名はシュターマン・リベルタ。この国で知らない人はいなかったよ。


私は彼のもとに生を受けた。


この国はマフィアが実効支配を行っている。政府なんてもの、あってないようなもの。

つまり、私のファミリーはこの国のトップだったんだ。


そんなリベルタファミリーは、一夜にして滅んだ。

国中のマフィアの精鋭達に、私達は粛清された。

理由は分からない。もう、どうでもいい事だ。

ファミリーは皆殺しにされ、屋敷は火に包まれた。





飛び散った血反吐。

ぶち撒かれた脳みそ。

死体の焼ける臭い。

家族たちの、醜い―――




「お前が最後だ。ジータ・リベルタ。」




私はその日、この世界を知った。


何もかも、嫌になった。







「……すよ。起き……ださい。」


その声に意識が呼び起こされる。


「…ん。」


どうやら居眠りしていたらしい。私はその重い瞼を上げる。


あれ、私なにか夢を…昔のことかな…


「先輩、何してるんですか。疲れてるのはわかりますが、早く仕事に戻ってください。」



私はあの後、自身の全てを偽って生活してきた。


紆余曲折あり、今はそこそこ良いレストランの接客をしている。お給料も悪くないし、割と気に入っている。

私は身だしなみを整え、休憩室を出る。


「さぁ、今から忙しくなりますよ!先輩!」


「うん。頑張ろうね、アンナ。」


彼女の名前はアンナ。私の後輩だ。明るく真面目に仕事を頑張っている。今となってはお酒を飲み交わす仲だ。トレードマークはショートの茶髪。


今日は土曜日の夜。一番忙しい時間だ。このレストランは雰囲気がいいと評判で、子供連れからカップルと幅広い層に愛されている。


この国はマフィアに溢れては入るが、当然一般人の生活もある。私の荒んでいた心は、この温かみに癒されいる。何もかもを偽っても、幸せはあるんだ。


私はスムーズに接客を行う。最初の頃と比べれば見違える程良くなっている。成長が素直に嬉しい。


「チャリンチャリン」


ドアが開くと同時に鈴が鳴る。私は笑顔で迎える。


「いらっしゃいま…」




その姿を見た瞬間私の背筋が伸び、額に冷たい汗が吹き出した。


入ってきたのはスーツを着た男三人。

右手がズボンポケットに入っている。これが何を意味するのか。私は過去の記憶から瞬時に分かってしまった。


次の瞬間、男達は右手を抜く。刹那、店内に轟音が鳴り響く。



「パァァァァァン!!」



予想は当たってしまった。賑やかだった店内は、一瞬で阿鼻叫喚に包まれる。どんどん銃声は重なっていく。


やるしかない。私が止めないと…!


私はテーブルからナイフを手に取り、ヤツらに駆け寄る。気付いた男の一人は、銃口をこちらに向ける。



「動くな!!」



聞く価値はない。撃たせる前に男の首を取り、その側面を抉る。


「ぅっっ」


首からは血潮が吹き出し、その体は抵抗を諦めた。


残り二人もこちらを察知し、銃口を向ける。

私は血が吹き出す男の体を盾にし、その手から拳銃を取り上げて応戦する。なるべく背後に客がいない位置を取る。


「パンッッパパパンッッッ!!」


弾丸が宙を飛び交う。


「ああああああああぁぁぁあああ!!!」


盾にしている男から血と共に断末魔が飛び出す。


「かっ」


「ぅぎ」


それぞれ二人の頭と首に弾丸が命中する。男達は支えを失い、血を流しながら力無く崩れ落ちる。



私は盾にした男を投げ捨て、他の二人に弾丸をそれぞれ撃ち込み確実に始末した後、拳銃を投げ捨てる。




店内は静寂に包まれていた。当然祝福の声などあるはずない。



私に一挙に視線が集まる。

その目は恐怖と、嫌悪に満ちていた。



「誰か救急車の手配を!!」



ようやく彼らは動き出し、声を上げる。

罵詈雑言が溢れ出し、泣き叫ぶ声が耳を突き刺す。

私は死傷者達を見渡す。意識がある者もいれば、頭から血が流れ出す者もいた。


あの中に、殺害対象でもいたのだろう。当然、流れ弾に当たり死んだ一般人も…。




「え…」




私は、テーブルと椅子の隙間から茶髪の人物が倒れているのを見つけてしまった。出血も酷い。



私は激しい寒気に襲われる。私の足はまるで足枷が掛けられているかのように重くなる。


恐る恐る、その顔を除く――――






私は一人店を出て行った。






外は五月蝿いサイレンがこだまし、赤い光がチカチカしていた。


この気持ちはいつぶりだろう。

昔に頭の端っこに押し除けた筈の記憶が、感情が、溢れ出してくる。




ここは、理不尽だ。

一般人までもが醜い争いに轢き殺されてしまう。

あんな風に、なっていいはずない。


私がもっと早く判断を下していれば。




なんで?どうして?どうすれば?




あんな風に死んでいい理由なんか…



実際に手を下すのは上からの命令に従う下っ端共だ。

そいつらを殺したところで何も変わっちゃいない。




ここは、あの時から何も変わっていなかった。

私も、何も変われていなかった。

本当に、嫌気がさす。





暗い雨が街を包む。その勢いはだんだんと強くなる。



雨が、私の積み上げてきたベールを洗い落とす。



さよなら、偽りの四年間。




ここでは、ルール無用だろ?






全部、ぶち壊してやる。

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